第85回箱根駅伝、昨日の往路は過去に見たことがない高レベルのデッドヒートが続き、混戦の中、見事一年生柏原の爆走山登りで東洋大学が往路初優勝を飾った。
そしてワクワクしながら迎えた復路。復路もやっぱり凄かった。なんといっても東洋大と早稲田大の大デッドヒートは手に汗を握るどころの騒ぎではなく、心が震えるようなシーンが幾度も繰り返された。日本の若者もまだまだ捨てたもんじゃない。頑張ってる奴らは心も身体も本当に強い。そんなことを思わさせられた二日間だった。
で、とにもかくにも東洋大は往路、復路、そして総合と全てを抑えて完全優勝。昨日と今日の東洋は本当に強かった。しかし4区までの位置取り(9位)のまま復路に入っていたとしたら優勝まで持っていけたかどうかかなり疑わしく、やはり5区の一年生柏原の走りに尽きると言っても過言ではないように思う。
2位は常に優勝争いを演じ続けた早稲田大学、3位は予選会からの復活だった日体大、4位は中央学院大、5位が大東大というオーダーとなった。
東洋大の華々しい初優勝の一方で、今年も途中棄権する大学が出てしまった。8区で城西大の石田が残り1.5キロほどの地点で無念の途中棄権。去年は3校の途中棄権が出てしまい、今年こそ全ランナーに走り切って欲しいと願っていたのだが、またしても途中棄権が出てしまい、その点はとても残念だったし、城西大のメンバーにはとても気の毒なことだったと思う。
ただ、途中棄権があった8→9区の鶴見中継所の城西大以外は、途中の中継所での繰り上げスタートが一切なく、これは見ていてとても素晴らしいと感じた。20キロ以上の長丁場を、襷を繋ぐために走ってきたランナーにとって、次のランナーが中継所にいないというのは、あまりにも過酷なことで、交通規制の事情で仕方がないとはいえ、できれば見たくないシーンなので、繰り上げスタートがなかったことは選手の努力の賜物だったと思うし、本当に素晴らしいことだと思う。
で、その繰り上げスタートなしの一番の功労者は、記録に残らないエース、城西大の9区を走ったキャプテン、伊藤一行の力に負っていたことは、テレビ中継では殆ど触れられていない。
城西大の8区石田が途中棄権をした際に、9区のランナー伊藤は大会規定により、トップランナーがスタートしてから20分後に戸塚中継所をスタートした。
トップから20分での繰り上げスタートというのは、戸塚中継所でも、その次の鶴見中継所でも同じ。つまり、最下位の城西大は、トップのチームよりも速いタイムで走らない限り、次の中継所では必ず繰り上げスタートになってしまう。そして、駅伝の終盤戦で、最下位チームのランナーがトップを走るランナーよりも速いタイムで走ることは精神的にも至難の業である。ましてや自分の直前のランナーが棄権していればなおのこと。
上のリンクを見てもらうと分かるのだが、一覧の一番下の行に、一人だけ順位記録がない選手がいる。城西大のキャプテン、伊藤一行だ。途中棄権したチームは、それ以降個人成績すら正式記録に残らないので、伊藤の走りは大会記録に残らない。
しかし、伊藤の記録、1時間10分39秒は、同じ表の一番上の行、つまり9区でトップタイムだった山梨学院大学の中川の記録、1時間11分07秒よりも30秒近くも速い。
つまり、失格となった城西大の伊藤一行のタイムは9区の区間賞だったのである。この伊藤のタイムを知って僕は本当に感動した。
駅伝は連帯感とリズムのスポーツだと思っている。もちろん選手一人ひとりの実力がなければ話にならないが、一度良い流れに乗ったチームの選手は実力を存分に発揮する一方で、リズムが悪くなってしまったチームの選手は、本来の力が出せず、チームは最後まで下位に沈んでしまう。
そんな中で、自分の前の区間の選手が途中棄権をしてしまい、襷が途切れ、もう自分の名前とタイムすら大会記録に残らないことが分かっている中で、優勝争いをしていた東洋大や早稲田の選手よりも速いタイムで走り切るということは、ちょっとやそっとの精神力ではできないことだと思うし、そんな凄いことをやってのけた選手を僕は見たことがない。
2区区間新のモグス、20人ごぼう抜きのダニエル、3区区間新の竹澤、4区区間新の三田、5区で圧倒的な区間新を出した柏原、6区で激烈なデッドヒートを繰り広げた加藤と富永ら、凄い選手は何人もいたし、それに相応しい注目と賞賛を浴びていた。
だが、途中棄権失格後の9区をトップタイムで走り、区間賞をもらうことなく去っていった城西大のキャプテン、伊藤一行にも、区間新を出したり優勝争いを繰り広げた選手と同じぐらいの大きな拍手と喝采が送られるべきだと僕は感じる。本当に素晴らしいことだし、このタイムによって城西大の今年のメンバーも来年のメンバーも強く励まされるだろうし、来年のメンバーは棄権した石田も含め、この伊藤の素晴らしい頑張りを誇りに感じて是非リベンジしてもらいたい。こんな素晴らしい選手がいるからこそ、箱根駅伝はさらなる魅力を持つ大会になり、憧れる優秀な若い選手を引き寄せていくのだろう。
そして、去年優勝の駒沢大、一昨年優勝の順天堂大、一昨々年優勝の亜細亜大、そしてその前は駒沢の4連覇でさらにその前が順天堂大でその前も駒沢なので、つまり、この10年間の優勝校が全てシード落ちして、来年は予選会スタートとなる。まさに戦国駅伝。凄いことになってきた。
激しさを増す戦いで、故障する選手が増えてしまうことが残念だが、ゴールシーンで、33年ぶり出場の青山学院大学のアンカーが、22位でゴールする際に、満面の笑みとガッツポーズで帰ってきたことが、駅伝本来の楽しさ、素晴らしさを僕らに伝えてくれているような気がして、とても清々しい気持ちになった。
箱根駅伝、来年も楽しみだ。