伊集院静の初期短編集。5編の短編からなる。
5編のうちで最も有名なのは、著者の先妻であり女優の故・夏目雅子の闘病の日々を描いたタイトル・クレジットの「乳房」であろうが、それ以外の四編についても、それぞれ非常に趣があり個性豊かな作品に仕上がっている。
この作品集を読んだのは恐らく10年ぶりぐらいなのだが、この10年の間に自分が重ねた年齢とそれに伴う経験により、この作品への触れ方と感じ方が随分と変わったような気がして新鮮であった。
「桃の宵橋」以外は全て男性が主人公で、しかもその男性はみな40歳前後で、離婚を経験していたり、妻が重い病であったり、弟を過去に失っていたりと、皆色々な人生の重しを背負って生きている。
彼が描くちょっとしたエピソード一つひとつに、そういった過去の出来事の残滓がうっすらと積もり、それが何ともいえない哀愁となって全篇に漂っている。
また、彼のシンプルで落ち着いた、そして静かな文章は、独特の男臭さをも孕ませつつも、瀬戸内の穏やかな海のように静かに流れて行く。
男も40になれば、それなりの歴史を背負うものだ。そんな当たり前のことを改めて感じさせてくれる静かな作品集。
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