本書「徹底抗戦」は、ホリエモンこと堀江貴文氏が、いわゆる「ライブドア事件」について、自らの主張を綴った書き下ろし書。
誰が悪くて誰が悪くないとか、実際の金の流れがどうだったのかとかを検証することは、部外者の僕にはもちろんできない。
ただ、この本を読んだ印象として、堀江氏の主張は概ねすとんと腑に落ちてきたということ。ライブドア株が暴落した責任までをすべて堀江氏に押し付けることには違和感を感じるし、道義的責任を果たし社長を辞任するということと、刑事責任を取って有罪となることが混同されているという堀江氏の主張は非常に分かりやすいし、実際その通りだとも思う。
通常株式市場の混乱を避けるために金曜日に行われる強制捜査が月曜日に行われ、一部証券会社がライブドア株の信用担保価値をゼロにするなど、マーケットや投資家を無視し、企業価値を歪めた捜査や対応、それにマスコミの報道がされたために、ライブドア株は過剰に暴落することになったという件については、思わず溜め息が出た。実際この事件を境に、新興市場株は大幅下落へとトレンドを変え、そしてそのトレンドは今日まで変化していないのだ。
あと、同様の粉飾決算等で摘発された日興コーディアル證券の問題や石川島播磨の問題はライブドア事件よりも後に発生したにも関わらず、課徴金の納付が求められるだけで、一人も逮捕者が出ていないにも関わらず、ライブドア事件では経営陣が軒並み逮捕されている点にも違和感を感じる。
あと、堀江氏の主張に頷く点が多かったのは、ホリエモンは創業者であり大株主であるのに対して、宮内、中村といった側近達はサラリーマンであり、会社に対する思い入れにレベルの差を感じた、という点だ。この点について堀江氏の想いはシンプルにストレートに伝わってきたものの、恐らく宮内氏ら側近は、堀江氏と同じような愛着はライブドア社に感じてはいなかっただろう。
全篇を通じて、ホリエモンこと堀江氏の性格が良く現されていて分かり易いなあと感じたのだが、きっとこの人は、周囲の空気が読めない人なんだろう。人と違うことばかりして叩かれた小学校時代の記載が冒頭にあるが、人と違うこと自体はもちろん構わないのだが、人と違うということを自分が認識していなかったために、宮内氏や中村氏ら側近の造反に気付くことができなかったのではないかと感じた(もちろんホリエモンの主張が正しいという前提の文章であることを断っておく)。
「創業してからの10年間、馬車馬のように土日返上で働いてきた。交際費もほとんど使わなかった。社員にもそれを守らせた。すべては株主に報いるため。そう信じてやってきた」この一節はなかなか胸に迫るものがあった。
残念だったのは、ニッポン放送株取得やフジテレビとの問題、それに近鉄バッファローズ買収や新球団設立、それに衆院選への立候補など、一連の世間を騒がせた出来事を起こした理由があまりきちんと語られていない点だ。
会社四季報を眺めるのが趣味になり、ニッポン放送の欄を見て興味を持った、とか、フジテレビの放送画面にライブドアのURLを貼りたかっただけ、とか、撮影の合間にケータイメールをチェックしていたら小泉首相が郵政解散をして、選挙が行われることになり、急に出馬したくなった、とか、あまりにも説明がなくて腑に落ちない。
まだ裁判で係争中の案件を扱っているためという点もなくはないのだろうが、堀江貴文という人間に迫るためには、その辺りの本当の想いを、もっともっとページを割いて語って欲しかった。その点は残念だ。
マスコミによる異常なまでのバッシングにより対人恐怖症に陥ったという堀江氏の語り口は、本が終わりに近づくに従って寂し気になっていく。最高裁での上告審に負けて実刑判決が確定すれば、堀江氏は再び収監され、彼が夢に見る宇宙ビジネスを実現する日はずっと先へと遠のいてしまうのだ。
この裁判がどのように決着するのか、いまの段階ではまったく分からない。ただ、僕はこれからもホリエモンには注目し続けていきたいし、いつの日か再び大きなビジネスの檜舞台に復活し、社会に貢献しきちんと尊敬もされるビジネスマンになってもらいたいと願う。
しかしどうしてこんなにシリアスで固いテーマの本なのに、拘置所に収監中に風呂場でオナニーした話を書かなきゃならんのだ、ホリエモンよ。これだけの規模の会社を率いた社長が、オナニーについて自著の中で語ってるなんて、聞いたことないぞ。まあそこがホリエモンらしいといえばホリエモンらしいんだけどね。
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