本書「騎士の十戒」は、北京オリンピックでフェンシング・フルーレ競技で日本人初の銀メダルを獲得した太田雄貴が書いた、自らのフェンシング史と競技としてのフェンシングの紹介、さらにフェンシング競技の根底に流れる「騎士道」を絡めて紹介した本である。
なにせまだ24歳の若者が書いた本であるため、ところどころに稚拙な思い込みや検証が足りない断定があったりするのだが、それを差し引いても、著者太田雄貴が持つフェンシングへの強く熱い思いがヒシヒシと伝わってくるし、新渡戸稲造の「武士道」を引用しつつフェンシングに宿る騎士道を説明する部分など、かなり良く練られた構成だと感じさせられる。
日本国内の競技人口は僅か数千人というマイナー競技フェンシング。太田雄貴は無名フェンシング選手だった父に誘われて10歳にしてフェンシングを始める。その日から4,000日以上、一日も休まずに練習を続けた彼の姿勢も大したものだが、幼い太田雄貴を導き続けた父もまた凄いと感じさせる。さらに、その父の隠れた想いを太田雄貴氏がしっかりと受け止め、著書で感謝の言葉を述べ続けているというのもなかなか凄い。
思春期を迎えた親子というのは、えてして親の想いに子が反抗し、その子の姿を見て親は怒ったり絶望したりして、なかなか親が思うような道に子供は進んで行かないものだが、太田親子は父が導くフェンシングへの道にまっすぐに猛進していったわけだが、これはなかなか希有なことである。
全日本入りしてからのウクライナ人コーチ、オレグ氏との確執とそれを乗り越える姿勢も若者ながら大したものだ。父や先輩との我流でやってきていた太田雄貴は当初オレグコーチの指導に共感を得られず、結果不振に喘ぎ、後輩達に追い抜かれて行くのだが、そこで一発頭を下げてコーチに教えを請い、意見が異なると思っても一度決めたら相手の指導にしっかりと食らいついて行き、結果オリンピックでの銀メダルにまでつなげてしまった。
向こうっ気が強く自分が納得していない相手に頭を下げられなかった自分自身の高校・大学時代と較べると何という違いだろうか。
どんなマイナー競技でも、世界的に人気がある競技であれば、強い選手が出れば国内での扱いも当然大きくなる。北京での太田雄貴の活躍をテレビで見てフェンシングを始めた子供達というのも少なくないだろう。
北京で獲得した銀メダルは「過去のもの」と言い切り、ロンドン五輪での活躍を誓う著者の今後の活躍に期待したい。
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