本書「魚には水、私にはワイン」はワイン輸入販売業を長年に渡り営んできた中川一三氏が自らの体験を交えて綴るカリフォルニア・ワインの書。
タイトル「魚には水、私にはワイン」を見て、「川島なお美かよ」というツッコミを入れたくなるが(笑)、著者は立派なおっちゃんです(失礼)。中川氏は「中川プランニング」と「中川ワイン販売」という二つの会社のオーナーであり、最近一線を退くまでは同社の社長さんだった方とのこと。僕自身飲食業界にいた時期があったので、中川ワイン販売という会社の名前は、何となく聞き覚えがあったような気がした。
中川氏が語るところによると、地上最高のワインはカリフォルニア産のピノ・ノワールなのだそうだ。本書の冒頭に出てきたこのフレーズを目にして、軽い違和感を感じた。地上最高のワインといえば、フランスのロマネコンティなりシャトー・マルゴーなりではないのか、と。
中川氏は一人でワインを飲むことはなく、常に自宅のワインセラーに友人・知人を招いて「ワイン会」を開催するのだそうです。その頻度は週に4〜5回とのことで、その名も「和飲之樂」(ワインこれ楽し)だそうだが、まあなんとも優雅なことで、思わず本に向かって「随分お金があっていいねえ」と呟いてしまう。
同氏がワインにはまったきっかけは生来の野菜アレルギーで野菜がまったく食べられず、ならばと医者にワインを進められたことがきっかけだったそうだが、人間まったく野菜を食べずにワインが飲める歳まで元気で生きられるのかと驚いた。また、同氏は有名レストランに自分が購入したワインを数十ケース単位で送りつけ、自分が客として訪問する際にはそのワインを出させるのだそうだが、これも何だかちょっとやり過ぎというか、金にモノを言わせてワガママをするオッサンという感じがしてどうも素直に読むことができない。自分がつくづく貧乏性だなあと感じる瞬間である。
ワインについてはそれほど詳しくはないのだが、でもピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルローなどはさすがに分かる。本書では一本数十万円から数百万円もするような「カルト・ワイン」について蘊蓄が語られているのだが、その部分は読んでも良く分からず、だが、ワインの産地で今どのようなことが起こっているかということや、ワインのラベルを「エティケット」と呼び、ラベルに産地やヴィンテージなどの情報書いたことから「自己紹介」という意味が生まれ、さらに派生して「自分が所属する場所での礼儀作法」という意味なったという話などはとても興味深い。
地球温暖化の影響でブルゴーニュ地方ではワインが採れなくなりつつあり、しかもフランスは政府による規制が非常に厳しく、地面にビニールシートをかぶせて保護したり、土地改良をしたりという科学的改善法が採れないため、大金持ちやマニアに人気のワインはどんどんカリフォルニアにシフトしているのだそうだ。
そういえば以前何かの雑誌でフランスでワインが不作になるだろうという記事を読み流したのだが、それにはそのような側面があったとはまったく知らなかった。勉強になるなあ。
ワイン会には宮澤喜一氏や高円宮殿下、白州次郎、長嶋茂雄などの著名人も顔を出したそうで、IMF理事のスペイン人まで登場したというからビックリではある。ただ、主催者本人が書いているとおり、この会に来ると、ビックリするぐらい高価で貴重なワインがたらふく飲めるというのが噂になって人が集まっているようなのだが、それってひょっとして著者の人徳に人が吸い寄せられているのではなく、ワインに人が集まっているだけなのではと思ってしまうのだが、著者が分かっているようなので、まあいいかとも思う。
本書で熱く語られているカリフォルニアのカルト・ワインにはとても手がでないけれども、今度のお給料日になったら、いつもよりちょっと高めの、そうだな、一本3,000円ぐらいのカリフォルニアの赤ワインを買って、久し振りにデキャンティングでもして飲んでみようかという気にさせられてしまった。
わはは、危険な兆候であることは間違いない。充分気をつけよう。
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