村上春樹の最新長編小説「1Q84」のBook2を読了。Book1のレビューはこちらに。
読み終えるのが惜しくて、出来る限りゆっくり読み進めていた村上春樹の「1Q84」だが、ついに読み終えてしまった。まさに「読み終えてしまった」という表現がぴったりで、魅力的な登場人物たちに囲まれ、スピード感溢れ複合的に入り組んだ物語の舞台に満たされ、いつまでも読み続けていたかった。それだけ力のある、そして僕の心と身体の根幹を震わせる、そんな物語だった。
読み終えたのが午後6時過ぎで、今が8時45分だ。まだ2時間半ほどしか経っていない。僕の頭はまだ整理がついておらず、ふわふわとした感情や思考の断片のようなものがそこかしこに浮かんでいて、ハッキリとした形を形成できていない。
明日か明後日まで待って、もう少し頭が整理され、僕と作品との間にしかるべき距離感が生まれ、想いが落ち着いてからレビューを書くべきなのかもしれない。今レビューを書いても、まとまりがない、バラバラの、ただの感情の吐露になってしまうかもしれない。だが、それでもやはり、敢えていま書いてみる。未成熟だとしても、読了直後にしか書けないこともきっとあるだろうし、今書くことに意義があると思う。
ではBook2の話。Book1で感じた高揚感とある種の予感を胸に抱いたままBook2を開いた訳だが、読了した今もその高揚感とある種の予感は変わらず僕を包んでいる。「1Q84」が、従来の僕にとっての村上春樹の最高傑作「ねじまき鳥クロニクル」を超えるNo.1作品になるだろうという期待に対する高揚感であり、そして、読了後に自分が抱くであろう感情を、僕はきっと理路整然と言葉で表現することはできないだろうという、こちらはある種絶望的な予感であった。そしてその両方が、そのまま現実となった。
そしてもうひとつ作品読了後に強く感じた読者のわがままとして、やはりもっと物語が続いて欲しかった。それは本作が物足りないのではない。物語が尻切れで終わっているわけではなく、読後感に物足りなさがあるのでもない。ただ、この作品の持つ強く繊細な世界観が心地良く、登場人物も文体も質感も魅力的であるが故に、もっと世界を膨らませ、物語を入り組ませ、息を飲むような疾走感を加速させ、爆発的なクライマックスを迎えてもらいたかった。
あと、何人かの主要ではない役回りの人達が、理由が明かされないまま、すっと姿を消して行ってしまうのが切ない。
ふかえりの保護者であり「さきがけ」リーダー深田の親友でもあった戎野先生はどこに消えた?天吾にリライトを持ちかけた小松の消息はどうなったのか。青豆と一時期チームを組んだあゆみをラブホテルのベッドに手錠で縛り付けて殺害した男は誰だったのか。天吾の年上の不倫相手に一体何が起こったのか。
多くの事象は謎のまま僕ら読者の手に置き去りにされてしまった。だがこれは作者が稚拙だったのではもちろんない。そんなことはもちろん分かっている。分かっているが、どうにも切ないのだ。彼らのためにも、もっと深い物語を与えてやって欲しかった。もう一度ストーリー上に登場させて欲しかった。
でもそんなことは些細な読者のこだわりなのだろう。重要なことはこの物語のメインテーマなんだと感じている。「ねじまき鳥クロニクル」はダークでハードで、そして壮絶なラブストーリーだった。そして「1Q84」もまた「愛」の物語である。ねじまき鳥よりもさらに昇華され高い次元へと上った、悠久の愛の物語、そう感じた。「愛」をテーマにここまで深く物語を作り込める人は他にはいないのではないか。少なくとも僕は圧倒された。
そして最後に。Book1を読み終えて僕はこの作品が「コインロッカーベイビーズ」に何か似ていると書いた。Book2を読み終えた今も、その気持ちは変わらない。コインロッカーベイビーズのキク、ハシ、アネモネは、この1Q84の青豆、天吾、ふかえりにどこか重なってくる印象がある。それは同じ宿命を背負いつつ異なる人生を生きる「同士」が奏でる「戦士の歌」が聴こえるという共通項があるからではないか。
そんなことを、いま、考えている。
また落ち着いた頃にでも、何か思うことがあれば書いてみたいと思う。
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