「ウェブはバカと暇人のもの」は、ニュースサイト編集者や広告代理店のPR業務を担当していた著者中川淳一郎氏が、日本のネットを取り巻く現状を独自の視点で分析した書。
痛快な本だ。日本のネットヘビーユーザーの気持ち悪さ、そしてそれに起因する日本におけるネット全体の気持ち悪さを不躾な言葉でずんずんと土足で踏み込みながら分析しで行くのだが、そこにはまさに膝を叩きたくなるような事柄が幾つも含まれている。
まず扇情的な「ウェブはバカと暇人のもの」というタイトルからしてかなりイカしている。これは著者が、ネットニュース編集者当時にネットユーザーを惹き付ける見出し語作りの腕を磨いた結果得た能力から生まれたものだろう。
そして内容についてもなかなか小気味よい。「ウェブ進化論」などで盛んに唱えられるネット万能論に対し、読者からのコメントを受け付けるニュースサイト編集者だった「ウェブ小作農」を自認する著者が現場で感じる違和感を、「バカ」という強い言葉を使って明快に説明してくれている。
要はウェブのヘビーユーザーであり、芸能人ブログを炎上させたり盛んにニュースサイトにコメントしたりしている人達というのはバカか暇人であり、そういう行動を取っている人達を相手にするのは運営者としては時間の無駄で、何も始まらないと著者は説く。
現実世界では大人しく生きている人間が、バーチャルの世界になった途端に自分のことでもないのに、芸能人や企業の行動にいちいち難くせをつけ、正義漢ぶった行動を取る。そこには自分の発言が通るという恍惚感と支配欲、そして圧倒的な「暇」な時間という存在が必須で、彼らが書き込む「苦情」「クレーム」などは、時として真面目な運営者を苦しめ困らせ、場合によってはブログの閉鎖や担当者の退社などという結果を生む場合もある。
だが、そういう行動を取っているのは、「バカと暇人」なのだと割り切り、受け流せと著者は説いている。
「リア充」という言葉すら僕は知らなかった(現実(リアル)世界での人生が充実している人という意味らしい)が、リア充は芸能人の発言なんかいちいち気にしていられず、企業に難くせをつけるまえにその会社の製品を買うのを止め、別の製品を買うだけだ。
そして製品を買ってもらいたい企業のマーケ担当者や広告代理店も、ウェブに対して持っている誇大な幻想を捨てよと説く。日本人は未だにテレビが大好きで、テレビで見たネタをせっせとウェブに書き込み共有しているに過ぎない。納豆ダイエットやバナナダイエットなども、結局はテレビ番組で発信されたネタがネットで増幅され、結果としてセンセーショナルな動きとなったに過ぎない。
ウェブやネットによって情報量が圧倒的に増えたとしても、検索するツールがGoogleとYahoo!だけで、検索するキーワードが「納豆ダイエット」や「バナナダイエット」であれば、検索結果に表示されるサイトは全国津々浦々同じものであり、結果、ネットにより国民の行動は多様にはならず、均質になってしまった。
結局著者が強調しているのは、ウェブというのは夢のツールではなく、「頭が良い人」が使うと凄く便利だし画期的なことも起こるが、「普通の人」や「バカ」が使ったからといって、夢のようなことは起こるはずもなく、寧ろ匿名性故のトラブルが起こり面倒くさくなっているだけだ、ということなのだが、これは本当にその通りだと思う。
ウェブは便利に使えばとても素晴らしいツールだが、自分自身の実力以上の何かをもたらす宝くじみたいなものではない。
読んでいる間、一貫して「バカと暇人」というキーワードで解ける謎が多く、読みながらやたらとニヤニヤしてしまった(笑)。
とにもかくにも、ウェブという有効なツールを駆使して便利に使って行く。そして人に迷惑を掛けない。マナーを守り他人には礼儀正しく接し、気が合う仲間とは積極的に交流していく。なんてことを考えていると、ウェブ上での行動も現実での行動も何一つ違う部分はないのだ。
そんな当たり前のことを再発見させてくれた本書に感謝したいと思った。
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ありがとうございます
コメントありがとうございます。ひょっとして作者様ご本人ではないですか?どうもありがとうございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。