渡辺久信氏の「寛容力 〜 怒らないから選手は伸びる 〜」を読了。
非常に面白く、勉強になる本だった。渡辺久信氏といえば、清原、秋山、工藤らと、西武ライオンズの第二期黄金期の中核を担った豪速球エースピッチャーであり、昨年は埼玉西武ライオンズの監督として、就任一年目にして日本一を達成した名リーダーでもある。
この本を手に取るまで、渡辺久信氏の印象は、恐らく多くの日本の平均的野球ファンの方々と同じようなもので、「若い頃は『新人類』とか騒いで工藤とテレビでばか騒ぎしたりして、最初は豪速球でビュンビュン三振を取って活躍してたけど、あまり長い間活躍しないで、いつの間にかすーっと消えちゃったと思ったら、去年突然西武の監督になって、いきなり日本一になって、大したものだと感心した」というものであった。
そしてさらに日本一になった年のオフにこうして本まで出版してベストセラーになってしまったのだから、まさに大活躍の一年だったのだろう。
さて、前置きが長くなったが、本書は著者渡辺久信氏の反省を振り返る自伝であると共に、現代の若者をいかにまとめ、引っ張っていくか、一昔前と何が違っていて何が違っていないのかを簡潔かつ的確にまとめた、マネジメント指南書でもある。
現代の若者はひと昔前までと違い、子供の時代に怒られ慣れていない。だから、頭ごなしに怒ってしまうと「怒られた」という事実だけによって若者は萎縮してしまい、指導者に近づいてこなくなってしまうと渡辺氏は説く。まさにその通りなのだ。僕は渡辺氏より4歳年下だが、今の若者は、叱ると本当にあっけないぐらい見事に凹むのだ。そして凹んだまま復活しないことが多い。
相手のレベルまで目線を下げ、そして何が問題だったかを考えさせ、答えを導くのを手伝う。これが今のマネジメントに求められるアクションである。
「そんな面倒なことやってられるか。自分だってガンガン殴られて鍛えられたんだ。そんな根性じゃ一人前にはなれない」と吠えるのは簡単だ。だがそれでは若者はついてこない。そこがいま、野球の世界だけではなく、ビジネスの現場でも大きな問題になっていて、だからこそこの本が売れるのだ。
何故そうしなければいけないのかを納得したときには、その答えを導き出す方法を考える能力は今の若者は昔の若者より優れている。渡辺氏はそのようにも説明している。この点も大いに頷ける。彼らは論理的に納得しないと動こうとしない。だからこそ「いいから黙ってやれ」ではダメで、組織としての必然性、この行動を取った結果何が変わるか、変わった結果どうなるかを相手が納得するまできちんと説明し、相手の話も聴く必要がある。
若い頃は感情の起伏が激しくリーダータイプではないと思われていた渡辺氏がどうしてこのように若者の心を掴めるようになったか。そこには日本のメディアではほとんど取り上げられなかった、台湾球界での選手兼コーチ時代の苦労があったようだ。
西武からヤクルトに移籍して一年後、渡辺氏は現役を引退して台湾に渡り、投手コーチに就任する。ところが台湾リーグのレベルが低く、渡辺氏は何故か現役復帰させられエースとして18勝を上げ、最多勝を獲得してしまう。しかし彼はその一方でコーチとして、通訳もいない中、自らのピッチングをお手本にして若手を身振り手振りと片言の台湾語で若手を育て、そのやりがいに目覚めたという。
また、2年間の台湾球界を経験した後は3年間野球評論家として12球団をくまなく観察して回り、さらにその後は西武の2軍コーチ、そして2軍監督として、若手の育成を担って来た。
そんなキャリアを積んで来た渡辺氏だからこそ、独自の若手育成法を確立し、就任早々若手中心のチームを一年目から日本一に導くことが出来たのだろう。
スポーツ選手の自伝は時として自らの体験と周囲の人間関係ばかりが羅列されてしまって汎用的ではないこともあるのだが、本書はなかなか論理的で本としてもストーリーがしっかりしていて面白く、しかも勉強になった。なかなかの名書だと思う。
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