村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読了。
このブログでは初めての紹介だが、数え切れないほどの回数再読している作品で、20回以上は読んでいるだろう。おかげで本はボロボロだ(笑)。
本書の舞台は1970年代初頭の東京郊外福生の米軍基地近くである。19歳の主人公「リュウ」が、日本人や米兵の仲間達との、麻薬やセックス、音楽と暴力に満ちた日々を描いた作品である。そして本書は村上龍のデビュー作かつ1976年の群像新人賞受賞作であり、そして、同年の芥川賞受賞作品でもある。
僕が何度も繰り返しこの「限りなく透明に近いブルー」を読み返す理由は、その激しいセックス、ドラッグ、暴力の描写に惹かれるからではない。その理由は、この作品が持つ強いリリシズムと、そして文体の美しさが導く静寂さを僕が強く求めるからである。
物語の冒頭から繰り広げられる薬漬けの登場人物達の無軌道な言動は確かに刺激的で読む者を釘付けにする吸引力を持つし、登場人物同士のトラブルに起因する暴力シーンを読めばこちらの心拍数は上がりることも確かだ。
だが、麻薬やセックス、それに暴力への魅力が読者を本作に惹き付けるのではない。主人公が語る言葉の繊細さ、それに彼が見る世界の視覚的描写の美しさを徹底的に追求した純文学者、村上龍の世界に僕らは堪らなく惹かれてしまうのだ。
この作品の中では、主人公「リュウ」が見た世界だけが全ての世界であり、彼が見なかった事象はまったく描かれることがない。小説であるにもかかわらず、読者はまるで映画を見ているかのような錯覚を憶える。それほどに見事な描写力とキャラクター設定力を、本作は持っていると、僕は思っている。
この「限りなく透明に近いブルー」が発表されてから、既に30年以上の年月が経った。村上龍は大御所となり、経済・金融小説やビジネス系エッセイを多数発表し、今や日本の現代を非ビジネス・非経済学者的アプローチから抉るという活動における第一人者になっていると言って良いだろう。
だが、僕は、村上龍には、是非もう一度だけ、この「限りなく透明に近いブルー」の文体を使って、経済・金融ではない、ビジネスでもない小説を書いて欲しいと願っている。
何故なら、彼の長く栄光に満ちたキャリアに於いて、村上龍がここまでリリシズムにこだわって作品を完成させたのは、あとにも先にもこのデビュー作以外にはないからだ。
なんといっても密度が濃く、儚く、そして名言に満ちた名作。タイトルも泣けるほどカッコいい。「限りなく透明に近いブルー」。発表から33年を経ても色褪せない力作だ。
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たたたたタチさん!!
遅ればせながらタチさん(勝手に呼んですみませんw)のブログをまじまじと拝見していたら村上龍のキーワードが!!
「限りなく透明に近いブルー」は私もよく読みましたが、一番好きなのは「五分後の世界」です。ラストの「時計を五秒進めた」ってところが鳥肌ものでした。
そして村上龍の作品(小説に限る)はほぼ全て読んでます。
また、この前お話したフーコーとかの哲学者は、もとは村上龍と有識者の対談集「Ev.Cafe」からだったんです。頭の良い方から見ると村上龍の「俺はこれだけ知識あるんだぜ」的なところが鼻につくかもしれないのですが、私はあの知識欲は素晴らしいと思いました。
最近「半島を出よ」以来、小説を書いてないと思うのですが、とにかく私も村上龍には小説を期待したいです。
そしていつかタチさんとお会いしてお喋りしたいですw
Ryoさんこんにちは!
コメントありがとうございます。僕も「5分後の世界」も好きですねぇ。僕もほとんどの彼の小説を読みました。
村上龍は個人的にはやはり小説の方が好きで、エッセイや説法集みたいなのはちょっと辛いものがあります。
次の小説に期待したいですね。
近いうちに是非iPhoneや小説ネタで盛り上がりましょう!