先日椎名林檎のニュー・アルバム「三文ゴシップ」を紹介するエントリーを書いたのだが、その時につくづく音楽のレビューを書くことの難しさを実感させられた。
やはり耳から入ってくる情報を、言葉というまったく別の情報に置き換え、しかもそれを第三者に伝えるという行為は、しょっちゅう書いている読書記録とはまったく異なる難易度で、書き終えた後に読み返しても、ちっとも良さを伝えられていないという、もどかしさを強く感じた。
これはもうちょっと気合を入れて書かないといけない。ということで、音楽レビュー強化月間といったら大袈裟だけど、新作だけではなく、個人的に気に入っていたり気になっていたりするアルバムを紹介する機会を少し増やすことにした。
というわけで、強化策第一弾として、椎名林檎の「無罪モラトリアム」を紹介する。このアルバムは彼女のデビュー作であり、ミリオンヒットでもある。個人的には、彼女のアルバムの中で本作が一番好きだ。
アルバムとしてはこの「無罪モラトリアム」がデビュー作であり、全収録作品が彼女がデビュー前に書き溜めていたものだそうだ(Wikipediaより)。当時椎名林檎はまだ19歳である。その事実を前にすると、僕はただ呆然とするのみだ。どうしてこんな凄いアルバムが19歳のデビュー間もないアーティストに作れてしまうのか、と。
もちろん関係者間では期待の大物新人だっただろうから、プロデューサーやアレンジャーなども(アレンジャーは亀田誠二さんですな)気合を入れただろうし、レコード会社やテレビ局などのプロモーションにも力が入っていたのだと思う。だが、それにしてもデビューアルバムでこの破壊力というのは凄い。鋭利な刃物でバッサリ斬ってくるみたいなインパクトは、このデビューアルバムにおいて、最も顕著である。
名作揃いの本アルバムだが、中でも「正しい街」から「幸福論(悦楽編)」までの4曲は黄金期のジャイアンツの打順みたいに凄い(笑)。「正しい街」のイントロが流れるだけで、心がざわざわと騒ぎ、そして切なくもなる。ロックというよりはブルースに近いギターが19歳の音楽とは思えない世界観を見せてくれる。
続いては「歌舞伎町の女王」。この曲は椎名林檎の初期のエポック・メイキングで、次作「勝訴ストリップ」収録の「本能」と並んで、「新宿系」の代名詞となった名作で、ハードなロックなのだがその中にどこか演歌の侘しさのようなテイストがあり、それが東京の猥雑さを良く表していると思う。
3曲目は「丸の内サディスティック」。丸ノ内線の駅名と上京したばかりの音楽好きロッカー女子の生活をミックスし、言葉遊び歌的にシャッフルしている。最初の2曲とは雰囲気を大きく変え、ポップで軽快なリズムが特徴的。
そして4曲目「幸福論(悦楽編)」。オリジナルは椎名林檎のデビューシングルなのだが、アルバムに収録されたものは「悦楽編」とされ、シングル盤とはアレンジが異なる。シングル盤のゆったりしたリズムから一変し、アルバムでは畳み掛けるような速いリズムと激しく歪んだギター、ボーカルにもディストーションがかかり、ハードな曲に仕上がっているが、メロディーラインや歌詞が明るいため、アッパーな世界観がとても気に入っている。
とこの前半の4曲と、もう一曲のバズーカ砲として、8曲目の「ここでキスして。」が控えている。前半は音数を減らし、ゆったりしたリズムで始まるが、ストレートで激しい恋のメッセージを紡ぐ歌詞と相まって、サビに向かって一気にテンションが上がって行く、ドラマティックな曲だ。彼女の代表曲の一つだが、ライブDVDなどにはあまり収録されていない。
というわけで、他にも「シドと白昼夢」、「警告」、「モルヒネ」など、名曲はギッシリ詰まっているのだが、特に気に入っている5曲は上記のとおり。
アルバムとしてのパッケージとしての完成度も非常に高い、名作中の名作。本当に何度聴いても飽きません。お薦め。
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