恥ずかしながら、実は佐藤可士和という人物のことは去年までまったく知らなかった。
楽天のロゴを作ったのがこの人だと知り、名前が変わっていることもあって印象に残っていたのだが、今年に入って僕の周囲でやたらこの人の話が出るようになってきて、「これはひょっとして何らかのセレンディピティか?」と感じていろいろ調べていたところ、この本に巡り合った。
情報の整理は僕のライフワークなので、この「超整理術」というタイトルに強く惹かれ読んでみた。結果、すごく良くて魅力的な本なのだが、心の中にぞわぞわしたもどかしさも残ってしまい、消化不良も抱えることとなった。今この原稿を書きながら、自身の消化不良が何なのかを整理してみようと思う。
まず、本書の良かった点は大別して3つだ。
一つは「整理」という言葉を単に身の回りの整理整頓という意味だけに使わず、「空間の整理」、「情報の整理」、「思考の整理」とステップアップして説明しており、最終的には生き様の部分にまで視野を広げることに成功している点。
二つ目は、著者が仕事を通じて得た情報整理、思考整理のプロセスが、実例と共に詳細に書かれていて、非常にリアリティーに富むものに仕上がっている点。実際のクライアントとのやり取りと、その結果としてのデザインやロゴを見せられると、まるで自分が大きな仕事をやり遂げたかのような達成感を共有することができる。
そして三つ目は、「整理」と「デザイン」、「整理」と「クリエイティブ」といった、一見無関係とも思われるキーワードの結びつきの説明により、「整理」は実はどんなキーワードとも結びつくことができる、スーパーワードであることに気づかされた点。
例えば「整理」と「ランニング」。この二つのキーワードには接点はないと今までの僕なら考えたと思うが、本書を読了したおかげで、「何のために走るのか」、「どれだけ走るのか」、「走った結果どうなりたいのか」、「どのように走るのか」などのキーワードを接続ポイントとして情報と思考を整理することで、自分自身のランニングに対するスタンスや哲学を構築できるという武器を持った。これはとても大きい。
そしてもどかしさについてだが、整理術のステップが上がって「思考の整理」へと向かって行くにつれ、どうしても著者の事例紹介の部分に割かれるスペースの比率が大きくなり、どうやってこその整理術を獲得できるのか、というノウハウが、暗黙知になってしまっている点なのだと、これを書いていて気づき始めた。
れと同時に、このレビューを書いたおかげで、そのような「思考の整理」については、机の上を整理するとか本棚を整理する時のような明確な方法論というのはなく、著者自身が身をもって体感したリアリティーで示すことしかできない種類のものなのかもしれないと思うようになってきた。
いずれにしても、従来の「整理術」本とはまったく違うアプローチの、とても斬新でエッジの利いた本である。ちょっと時間を空けてもう一度読みたい、いまはそう感じている。
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posted with amazlet at 10.02.19
佐藤 可士和
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この本の内容を超整理して欲しい整理の先にある「本質」 デザインが好きな方には良し、ビジネス書としては足りないかな 仕事を進める手順書として 仕事は整理から始まる |
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