今週のミュージック・レビューは、1985年にリリースされた、スコットランド出身の4人組、ジーザス・アンド・メリーチェインのデビューアルバム、「サイコ・キャンディー」を紹介しよう。前回My Bloody Valentineの"Loveless"を紹介したら、勢いが付いてしまった(^_^;)。
バンドは1984年に結成、デビュー・シングルの"Upside Down"は60年代のポップスを彷彿とさせる甘いメロディーに、耳をつんざくばかりのフィードバック・ノイズに包まれ、全英に衝撃を与え、その衝撃的な音は日本にも圧倒的なファンを作った。
そして翌年に発表されたデビュー・アルバムが、この"Psychocandy"である。Upside Downの時とはドラムスが交代しており、後にPrimal ScreamでVocalとなる、ボビー・ギレスピーが加入していた。
このアルバムを3つのキーワードで解くとすれば、「甘美」、「狂気」、「ノイズ」のではないかと思う。1曲目"Just Like Honey"はまるでシュープリームスのカバーかのように甘いメロディーと、リバーブが効き過ぎて風呂場で鳴っているようなドラム、それに被さるギターのフィードバック・ノイズが、どこまでも甘く、狂気を孕んだノイズな世界を僕たちにもたらしてくれる。
アルバムを通じて、メロディーラインは基本的に分かりやすく、どちらかというと甘い。アップテンポの曲は全編がフィードバック・ノイズに包まれ、バラードの曲は音数を減らしてメロウに仕上げつつ、それでも後半はやはりフィードバック・ノイズがぎゅいんぎゅいんと鳴っている。大音量で聴くと、僕らにある種の高揚感を与えてくれると同時に、あまり長時間聴くと耳がおかしくなるという副作用もある(笑)。
このアルバムが発売された当時、僕は高校生だったが、初めて聴いた時にはぶっ飛んだ。従来にない音と世界観で、それまでアメリカのヒットチャートを追いかけて聴いていたのが、これを境にイギリスの音楽シーンに傾倒するきっかけになった。
個人的にはJesus and Mary Chainのアルバムの中では、このファーストが一番好きである。2nd以降はドラムのボビー・ギレスピーが抜け、後任を補充せずにドラムはリズムマシーンにしてしまったため、大きく印象が変わってしまった。また、全体の作りも2nd以降はフィードバック・ノイズが徐々に鳴りを潜め、オリジナリティが失われていったように感じている。
余談だが、僕は彼らの初来日のライブを観に行っている。場所は懐かしのインクスティック芝浦ファクトリー。前座が1時間演奏したのにメイン・ステージはわずか45分という短さで、しかも最後の15分はただひたすらギターがエコーで繰り返されているという始末。パンクな外人達はステージ後ろの金網にどんどんよじ登り始め、手に持ったウォッカやビールの瓶を、僕らの頭越しに投げつけるという、ある意味すさまじいライブだった(^_^;)。
色んな意味でとんがっていて、圧倒的なインパクト。まさに青春の音である。今聴いても、やっぱり凄いな。もう一度、あのインクスティック芝浦の演奏を聴いてみたい、そんな気にさせるアルバムである。