ネヴィルブラザーズ/イエロームーン。
ネヴィルブラザーズはその名のとおり、ネヴィルの4兄弟を中心にしてニューオーリンズで1977年から活動するグループ。ジャンルを一言でまとめるのはあまり好きではないけれど、あえてわかりやすく言うとニューオーリンズファンク/ルーツミュージック、といったところ。
本作は1989年リリース。
このアルバムについて評価される時は必ずプロデューサーであるダニエル・ラノワの手腕と共に語られるようで、確かに、全体を統一する空気感がすばらしく、スタイリッシュな透明感とニューオーリンズの魔術的な闇と優しさが渾然一体となって、「ある世界」へ連れて行かれるかのようです。バンドの力とプロデューサーの力が最良の形に花開いた作なのでしょう。
ニューオーリンズというのは面白いところで、北アメリカでありながらかつてフランス領であり、スペインからの移民も多く、いわゆるイギリス的なアメリカとは少し文化が違うのです。
なおかつ奴隷制によるアフリカの血ももちろん濃く、同じくフランス領であったハイチから、アフリカ源流の呪術的宗教・ヴードゥーが流れ込み、ヨーロッパとアフリカの混ざり合った独特のニューオーリンズ・ヴードゥーとも言われる土着文化が根付いていると言われています。
そのあたり、キューバなどカリブ海周辺の国々と似たような背景があり、事実、キューバの黒人音楽とニューオーリンズの伝統音楽の類似性を指摘する人もいたりします。
「ディキシーランド」や「ジャズ」だけではないニューオーリンズ。
それ以前に、その奥に、その底流に流れるもっと闇深いアフリカ的なもの・・・
そのようなまさに「ヴードゥー的」な夜を羽ばたいて渡っていく鳥のようなソプラノサックス・ソロによる「Healing Chant」は際立つ佳曲。
実際、グラミー賞ベスト・ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門を受賞した曲だそうです。
その他、タイトルであるイエロームーンなど、シンプルで覚えやすい歌ものも好感。あえてドラムを中心に置かずに多種のパーカッションでリズムを彩った事も、土着的をイメージさせる要因であるかもしれません。
アフロ・アメリカ文化の鮮やかな色彩とエネルギー、その憂いと優しさ、美しさを心地よく味わえる良い1枚です。
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