3月、私の教えている音楽学校でもそろそろ1年間のコースが終わり、生徒が進級や卒業していきます。
1年または2年という期間で生徒さんとおつきあいしていると、「最初こうだった子が今はこんなになってる」という、嬉しい驚きと感慨を感じることがあります。
A子ちゃんもその中の一人。ピアノとアレンジ両方見ていた子です。
もともと大人しくて引っ込み思案なタイプ。来た最初のころは、私が何か尋ねても蚊の鳴くような声で返事もよくわからないようなかんじ。
私もつい「どうしたいの?こうなの?ああなの?」と余計に押してしまって、ますます困らせてしまったようなこともありました。
とにかく自信がない。どうしたらいいかわからないんですね。
思えば私自身も似た道を通ってきました。「こうしなさい」と言われた事に素直に従って育ってきたいわゆる「よい女の子」は、逆に「自分がどうしたい」なんてことはわからなかったりするのです。そういう回路がないといってもよいかもしれません。
そんなことよりここで「どうしなければならないか」を一生懸命探ろうとする。頭の中は「これは合っているかしら、先生はどう言うかしら・・・」ということばかり。だからジャズやポップスのピアノで「自分の思ったようにやってごらん」なんて言われても真っ白になっちゃうんですね。
そんなA子ちゃんは、出しているピアノの音も弱々しいタッチで、どうしても右手のメロディーが前に出てこないというのが最初の頃でした。これはいくら私が「もうちょっと強めに弾いて」とか言ってもどうにもなりませんでした。
しかし1年め過ぎた頃から、ちょっとずつ変わってきました。
メロディーとコードだけの譜面を見て自分でアレンジして弾くことに挑戦していると、意外な事に実は「ここはこういう音がほしい」というこだわりが彼女の中に密かにあることがわかってきました。それを形にして決定するのにはずいぶん時間がかかったりするけど、実はけっこうセンスが良かったりします。彼女の中にはちゃんと美しい音楽性と自分の意思があったのです。
ならば、どんどんそれを出せるようになろう。
あなたがそう思った、ならばそれが一番大事。それが正しい。
「自信がある」というのは「私はこれができます」と堂々と言えることではなくて、自分の感じ思うことをそれでいいと思えることを言うのだと、私は思っています。
そう思ったことをその通り行動して形にする。そうやってA子ちゃんにはそういう「自信」をつけていってもらいたいなと思ったのは、何より私自身がそういう道を辿って、結果として昔よりはるかに安心して生きていけている実感があるからです。
そうやってゆっくりですが、一つずつA子ちゃん自身の中から出てきたものを大切にして曲を仕上げていくうちに、彼女が「こっちの方が好き」「こうしたい」ということをだんだん言えるように、そしてこだわりのアレンジを作って弾いてくるようになってきました。ピアノの音もずいぶん力強くなっています。
不思議なもので、だんだんファッションもおしゃれになってきて、学校のお友達とも楽しくやっているみたい。他の男子生徒から「あ、あのかわいい子ですね」などと言われている事もチラと耳にしてしまいました。自信がついてくるってそういうことなんでしょうね。
そして、今期末のアレンジ実習では、曲に加えて歌詞まで自分で書いて、学校から紹介されたヴォーカリストさんに歌ってもらうお願いと段取りをし、レコーディングでは初対面のミュージシャンやエンジニアさんともちゃんと渡り合って「こうしたいです」と伝えていました。
できた曲も素敵なもので、ミュージシャンの皆さんからも大好評。
この経験はこれからさらなる彼女の自信につながっていくことでしょう。
なんとなんと、あの最初の頃の彼女を思えばこの飛躍はすばらしい!
こんなに変わる事ができる、人ってすごいなーと思います。
この人が結果として音楽家になるかどうかとか、そういうことはわかりません。でもそんなことはある意味どっちでもいいんです。
この2年間という期間の中で、その人の何かが転換し、人として幸せになる力を確実に一つ身につけたということが大切だと思うし、私はそれがなにより嬉しい限りです。
よかったねー。おめでとう!