マーケティング・ブランディング書評

成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか by 上阪徹 — これぞ21世紀型理念経営のお手本!!

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「成城石井」という名前のスーパーマーケットをご存知だろうか。

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僕が住む元麻布からほど近い麻布十番にも、昨年12月に成城石井が新規開店した。

そして僕のランニングコース上の、青山通り沿いの、老舗スーパーピーコックのすぐ近くにも最近成城石井ができた。

また、エキナカにも成城石井は出店している。

たまたま通りかかって「こんなところにも出店しているのか」と驚くこともある。

そう、成城石井は、ここ10年くらいで「良く見かけるようになった」スーパーなのだ。

そんな成城石井について、尊敬するブックライター上阪徹さんが本を書かかれた。

成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか」という本だ。

 

成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?

上阪 徹 あさ出版 2014-06-24
売り上げランキング : 1564

by ヨメレバ

 

この本は、僕の成城石井に対する見方を根本から変えてしまうものだっただけでなく、21世紀のビジネスにおける成功法則を再確認することになる、素晴らしい一冊だった。

さっそく紹介しよう。

 

 

 

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これぞ21世紀型理念経営のお手本!! 成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか by 上阪徹

 

僕の成城石井のイメージは悪かった

成城石井のルーツはその名の通り、世田谷区の成城である。

1927年2月に、創業者の石井隆吉氏が開いた食料品店がその始まり。

そして二代目社長の石井良明氏が、1976年に店舗を新しくしてスーパーマーケットとしてスタートした。

2号店が神奈川県の青葉台にオープンしたのが1988年というから、長くは成城の地で営業を続ける地元のお店だったわけだ。

 

 

僕自身が「成城石井」という名前のスーパーを最初に知ったのがいつだったかは、もう憶えていない。

最初に成城石井で買い物をしたのは、今から5年ほど前のこと。

当時住んでいた文京区の自宅から電車で近い東京ドームシティの中に成城石井の店舗があったのだ。

東京ドームシティの成城石井はやたらと広く、そして品揃えも豊富だった。

そのときに僕が持った印象は「高級スーパー」だった。

東京には幾つもの「高級スーパー」が存在する。

紀伊国屋、ザ・ガーデン、明治屋、麻布ナショナルスーパーなどだろうか。

輸入食材などの取り扱いが豊富で、そして品質が良く、そしてその分値段も高い。

成城石井もそんな高級スーパーの一つ。

その程度の認識しかなかった。

それが僕と成城石井の最初の出会いだった。

 

 

その後、あちこちの街で成城石井を見かけるようになっていくわけだが、僕はそれらの店に入ることはなかった。

僕の中で成城石井のイメージは、店舗の急拡大もあって、「規模ばかり追求している拡大主義」「チャラチャラしたブランド主義」「高級ぶっている」という、悪いものが多かった。

実際に利用したことはほとんどなく、イメージだけか独り歩きしている状態だったのだ。

 

 

 

近所に店が出来て印象が変わる

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僕の生活圏に再び成城石井が現れたのは、昨年12月のこと。

冒頭に書いた通り、自宅のすぐ近くに成城石井麻布十番店が出来たのだ。

最初はイメージが悪かったので、あまり行きたくなかったのだが、24時間営業の便利さに惹かれて何度か利用した(実は麻布十番のスーパーは24時間営業が少ない)。

 

 

最初は他のスーパーが閉まっている時間帯に単品で必要なもの、朝のフルーツやコーヒー豆などを買っていたのだが、そのうち食事を作る時間がない日にお総菜を買うことになった。

お総菜コーナーに行って驚いた。棚に並んでいる商品のラインナップが、明らかに異常なのだ。

普通のスーパーのお総菜コーナーは揚げ物とお弁当が中心で、値段が安い代わりに、それほど美味しいものではない。

ところが、成城石井のお総菜の棚あるのは、ヤムウンセンサラダ、麻婆豆腐、900円もする超本格的なヒレカツ、ペンネパスタ、季節野菜のさっと煮など、手間がかかり、大量生産はできないような、独特のものばかり。

試しに買ってみようと適当に選んでレジに行くと、結構な金額になる。

「高いよなー」とちょっと不満に思いつつ自宅に戻り食べてみると、これがお総菜レベルとは思えない美味しさなのだ。

ひじきの煮付けなども、スーパーのお総菜とは思えない、しゃきしゃきした歯ごたえ。

野菜のさっと煮は、ゴロゴロの野菜が食感豊かにたっぷり入っているのだが、この野菜の風味が良いのだ。

そして900円のヒレカツは、いわゆる一口ヒレカツではなく、大きなまま揚げたヒレカツ一人前が、切られてパックされている。

冷めているのだが十分美味しい。衣もべたついていないし身もしっかりしている。

これは、高いのではない。すごくモノがいいのだ。そしてそれにしてはリーズナブルなのではないか。

僕はそう思うようになった。

 

 

そして、ダメ押しで僕が感激したのが、プライベートブランドのドレッシングだ。

僕は胡麻のドレッシングが好きで、いつも自宅に常備している。

大手メーカーのドレッシングは味は悪くないのだが、裏面を見ると添加物が山盛り入っていてげんなりする。

かといって、こだわりメーカーの添加物がないドレッシングはかなり高価になる。

いままでは、それでも仕方がないなと高いドレッシングを地元スーパーで買っていた。

 

 

ある日たまたま成城石井に行って、ドレッシングの棚を見ていたら、見たことがない胡麻ドレッシングが置いてあった。

反射的に裏面の成分表を見ると、添加物が全然入っていない。

そして表面を見て、値段を見てビックリ。

ロゴが小さくしか入っていないので気づかなかったのだが、成城石井のプライベートブランドのドレッシングだったのだ。しかも値段が安い!

それまで買っていたこだわりメーカーのドレッシングよりも30%以上値段が安い。

思わず胡麻ドレッシングと、一緒に並んでいた醤油ドレッシング、タマネギドレッシングも買って帰った。どれも添加物がほとんど入っていない。

実際食べてみると、このドレッシングがどれもすごく美味しくて、僕はすっかりファンになってしまった。

どうしてこんなに安い値段でこんなに美味しいドレッシングを、プライベートブランドで作れるのだろう?

僕の中でどんどん成城石井のイメージが変わりつつあるときに、上阪さんのこの本を読むことになった。

 

 

 

とにかく良いものを届けようという使命感

この本を読んで驚いたのが、成城石井という会社の持つ徹底されたプロ意識だ。

成城石井はワイン、チーズ、生ハム、オリーブオイルなどを中心に、他店舗にはない圧倒的な品揃えを誇る。

とにかく少量多品種で、棚がたくさんの種類の商品で埋め尽くされているのだ。

成城石井は、その独特の品揃えを「成城という土地で、食に敏感なお客様に育ててもらったもの」という捉え方をしている。

そして、お客様のニーズにさらに応えるために、徹底的に良いものを提供することに、ずっとこだわり続けている。

その結果が、他のスーパーとは明らかに違う、独自の品揃えになっているのだ。

 

 

僕が驚いたお総菜についても、他のスーパーとの違いにはちゃんとした理由があった。

普通スーパーのお総菜は外注して、店では揚げるだけ、レンジで温めるだけ、というスタイルが多い。だから揚げ物が多くなる。

いっぽうで成城石井では、自社でセントラルキッチンを持っていて、ほとんどの総菜をセントラルキッチンで調理して店舗に届けているのだ。

しかも、例えば前述したヤムウンセンは、パクチーどっさりの本格派。麻婆豆腐も山椒が効いて豊かな風味がある、お店レベルのものだ。

その美味しさの理由の一つは、セントラルキッチンで働いている調理人たちが、プロの料理人であること。

レストランやホテルなどで働いていた人たち、自分でお店を出せるレベルの人たちが腕を振るっているのだ。

 

 

また、「セントラルキッチン」というと、機械化された「工場」をイメージするかもしれないが、成城石井のセントラルキッチンは、「キッチン」であり、機械と人がしっかり仕事を分けて働いている。

たとえばポテトサラダのジャガイモの皮むきは、すべて手作業で行われている。

その理由について、本書から引用しよう。

 

「ジャガイモは、皮の真下が一番おいしいんですよ。機械を使うと、そこまで削ってしまうことになります。これでは、味がまるで変わります」

 

だからこそ、成城石井のセントラルキッチンでは、「みんなで並んで皮をむきます。このポテトサラダのレシピも、もともと一流ホテル出身のシェフが作ったものでした」ということになるわけだ。

お総菜の味が他のスーパーとはまるで違うのは当然のことだったのだ。

値段ももちろん違うわけだが、そもそも提供されている商品の品質がまったく違うので、安くなくても成城石井がいい、ということになるわけだ。

 

 

 

満足できるものがなければ自社で作る

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僕が驚いたもう一つの成城石井の顔、プライベートブランド。

他のスーパーでもプライベートブランドは多く販売されているが、成城石井のプライベートブランドは、その運営ポリシーがまったく違う。

要は、儲けるためにプライベートブランドを展開しているのではない、ということだ。

ではなんのために?

それは、満足できる品質の商品が調達できないなら、自分たちで作ってしまえ、ということなのだ。

 

 

たとえばジャム。

成城石井が展開するプライベートブランドのジャム、「オールフルーツスタイル」は、なんと砂糖不使用だ。

ジャムはそもそも保存食なので、砂糖を大量に使って作ってもそれが「悪」とはされていない。

そして砂糖を大量に使えば価格は下がり、フルーツがあまり入っていないジャムができ上がる。

そんな中、健康志向の高まりもあり、砂糖を使わないジャムが欲しいというお客様のニーズが高まっていることを察知した。

ところが、砂糖を使わずフルーツだけで甘味を出しおいしいジャムを作るのは、「とんでもなく難しい」。

儲からないのでどのメーカーも作っていない。

ならば「自分たちで作ってしまおう」ということで、登場したのが「オールフルーツスタイル」なのだ。

僕はこの本を読んで、どうしても「オールフルーツスタイル」を食べてみたくなり、実際に食べてみた(上の写真)。

「これがジャムか」と驚くような、本当に豊かな風味のりんごジャムであった。

まるでレストランのフルーツコンポートがそのまま瓶詰めされたようなのだ。

お客様が必要としているものが提供されていないなら自分たちで作ってしまえ。

それが成城石井のプライベートブランドの姿なのだ。

 

 

 

高級スーパーと呼ばれたくない

上阪さんが成城石井への取材を進めるにあたって、良く聞くことになったフレーズがあったという。

それが「高級スーパーとは呼ばれたくない」だ。

 

 

高級スーパーというのは、高級な食材を高値で売るお店のことを指す。

しかし、成城石井は「高級」なものを「高値」で売りたいのではないのだという。

成城石井が扱うのは、「お客様が必要としているもの」「いいもの」「おいしいもの」だ。

それがたまたま「一流品」だったり「高級品」の場合もある、ということなのだ。

だからこそ、価格についてもバランスの良い価格帯を目指しているという。

成城石井にとってのライバルは、高級スーパーではない。

 

「ライバルは、お客様のトレンドであり、お客様のニーズです」。

 

この言葉が、成城石井の目指す方向性を端的に示している。

ただ高級なものを並べるのではない。お客様が欲しいと思うものを徹底的に追い掛け展開していく。

他のスーパーでは買えないものが成城石井に行けば買える。

そのお客様の驚き、喜びが、成城石井の成長の原動力になっているのだ。

 

 

 

まとめ

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たかがスーパー、されどスーパー。

僕は料理を作るのが好きだ。

料理を作るのが好きな人は、自宅の近くに良いスーパーがあると幸せになる。

僕たちは自分が食べたモノだけで作られている。

それはすなわち、僕たちはスーパーによって作られているといっても過言ではないことを意味する。

だから、豊かなプロ意識を持った仕事師集団のようなスーパーが近所にあることを、嬉しく思う。

 

 

そして、成城石井のあまりにも実直な経営哲学と、いまの成長の軌跡を見て思うことがある。

これこそが、21世紀の高度情報化時代に成功する最善のビジネスの進め方、これぞ「理念経営」なのだ、と。

顧客のニーズだけに徹底的に向き合い、その価値を最大化させることだけにフォーカスする。

顧客は喜び、口コミが発生し、多くのファンが作られる。

その結果、ファンにより成城石井というビジネスは安定的に成長し、経営者も従業員も、豊かになっていく。

 

 

僕は拙著「サラリーマンだけが知らない 好きなことだけして食っていくための29の方法」に、21世紀のビジネスのキーは「誠実さ」である、と書いた。

この成城石井のストーリーは、まさに、誠実さが多くの人々の心を掴んだお手本となるのではないだろうか。

成城石井、恐るべし。

非常に勉強になり面白い本だった!オススメです!!

成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?

上阪 徹 あさ出版 2014-06-24
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