エッセイ書評

逃げる中高年、欲望のない若者たち by 村上龍 〜 僕らはどこへ向かうのか [書評]

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ブックレビュー2010年の121冊目は、村上龍氏著、「逃げる中高年、欲望のない若者たち」を読了。

このブログでの村上龍氏の著作に関する過去エントリーはこちら。

村上龍氏の最新エッセイ。「メンズジョーカー」誌への連載記事に、書き下ろしの一本が追加されたもの。

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逃げる中高年、欲望のない若者たち  by  村上龍 〜 僕らはどこへ向かうのか [書評]

村上龍氏の小説は最近のものを除いてほとんど読破しているし、エッセイも古いものはかなり読んだ。

基本的に僕は龍氏の小説は好きなのだがエッセイは苦手だった。

理由は簡単、説教臭くて威張っている印象があり、気が散ってしまい頭に入らないからだ。あまり心に響くものがなかった。

そして悪いことに「村上龍のエッセイは僕には合わない」ということを忘れてしまい、新刊が出るとついつい読んでしまい、「しまった、村上龍のエッセイは苦手だったんだ!」という状態に陥ることを繰り返していた。

本書も「お、村上龍の新刊だ!読もう!」と勢い良く入手してしまい、手に取ってから「しまったエッセイだ」となったもの。

だが、変な言い方だが、このエッセイはすごく心に染みた。言葉がすんなり頭に入り、彼が憂うことがストレートに伝わってきて響いた。

何故だろうと考えた。

一つには、僕が村上龍氏に説教される対象からは外れる年齢層となってきたため、客観的、中立的に読めるようになってきたということがあるだろう。

最初彼のエッセイに触れた頃は僕はまだ20台で、村上龍氏も40台、作者としての村上龍氏のエゴと僕の青臭いエゴがぶつかったのだが、もうお互いそういう世代ではなくなってきたということだろう。

二つ目には、村上龍も歳を取ったということか、と感じた部分もある。

本書の中で龍氏は何度か「自分も変わった」という趣旨のことを書いているが、実際読むとその通りで、カッコつけて斜に構えた龍氏の姿はずっと奥の方に引っ込み、どちらかというとストレートかつ素直な「素」の文章が描かれているように感じる。

うまく言えないのだが、「常温の文章」という感じがした。

過去の龍氏のエッセイは、いつも「微熱」を感じさせるテンションを持っていて、僕はそれが苦手だった。

身体の中から自然に湧いてくる微熱ではなく、微熱を感じさせるように武装した文章、という感じがしたのだ。

だが、本書の龍氏の文章からは、力が抜けていて妙なテンションの高さもなく、するりと流れた。

これはひょっとして龍氏の新境地だろうか?などと思ってしまうほどだった。

そして三つ目、これが恐らく最大の理由なのだと思うのだが、本書は「逃げる中高年、欲望のない若者たち」というタイトルの通り、扱っているテーマが現代日本の閉塞に関するもの。

で、村上氏自身が「どうして良いか分からない」「簡単な答えはない」と述べているとおり、力の込めようがなく、脱力しているせいではないか、と感じた。

本文中で、昔は合コンに行く女は軽薄で嫌いだと思っていたが、自宅に引きこもって鬱になり自殺するよりは、合コンでも援助交際でも少女売春でもやってくれ、自殺よりはずっと良い、と龍氏は述べている。

簡単な解決策が見当たらず、頼りになる政治家もおらず、お金はどんどんなくなっていく。

そんな日本の状況を前に、さすがの村上龍も、どうして良いか解らないとしか言いようがないのだろう。

そんな状況だからこそ、僕は彼の文章にシンパシーを感じ、彼の嘆きに感応したのだろう。

彼自身が現代の若者にはなりたくない、と嘆く状況は、何とかして改善しなければならない。

金、車、セックスといった、従来の若者が夢中になったステータス・シンボルに興味を示さなくなってしまった若者たちを、村上龍は必死に理解しようと試み、そして哀れんでいるのだが、彼らのようになりたいとは、どうしても思えないのだ。

巻末で龍氏はイギリスの過去の状況と今の日本を対比する一文を書いている。

だとすると、日本も一定の衰退期を経た後に、再度輝きを取り戻す日がやってくるのかもしれない。

現代のイギリスを輝いていると考えるかどうかは微妙だが、出生率の現象や慢性的な景気停滞を一旦は脱したという意味で、我々はイギリスに学ぶべき点は多いのかもしれない。

読んでいて心地の良いテーマではないが、現実をしっかり見据えるという意味では良いのかもしれない。

「逃げる中高年、欲望のない若者たち」のチェックはこちらからどうぞ!!

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