書評

主役の顔なき「自伝」 “facebook” by ベン・メズリック [Book Review 2011-013]

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ブックレビュー2011年の13冊目は、ベン・メズリック氏著、「facebook」を読了。

 

facebook

ベン・メズリック 青志社 2010-04-06
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by ヨメレバ

 

 

この青い表紙の本はずいぶん売れているようで、あちこちの書店で平積みになっているのを見かける。この本はいったい何なのだろう。まずはそこを定義したい。

facebook、フェイスブックは全世界で5億人のアクティブ・ユーザーを抱える世界最大のSNSである。もちろん日本語にもローカライズされていて、日本でも徐々にユーザーは増えつつあるが、欧米と較べると普及率は圧倒的に低い。

そして世の中には数多くのfacebookの使い方に関する本が出版されている。我らがかずやんこと、佐々木和宏氏の著書「facebook完全活用術」もそのうちの一つだ。

だが、本書はいわゆるノウハウ本ではない。この本を読んでもfacebookは使えるようにならないし、新機能を発見することもできない。ビジネスにいかにfacebookを導入するかも書いてないし、友達の増やし方も説明してくれない。

では、本書は何なのか。

本書は、facebook開発者であり創業者、そして現在も同社CEOとして君臨する、まさにfacebook生みの親、マーク・ザッカーバーグ氏とfacebook社を追ったドキュメンタリーである。

ハーバード大学の学生だったザッカーバーグ氏が友人を誘ってfacebookを立ち上げてから恐るべきスピードでユーザーを獲得し、資産家からの協力を得て大きくビジネスを羽ばたかせるまでのfacebook社黎明期を克明に追うストーリーは、数百人にも及ぶ関係者へのインタビューと取材を通じて再構築されたもので、非常にリアルでダイナミック、まさに現代アメリカのシンデレラ・ストーリーそのものである。

天才プログラマーとして知られてはいたものの、何を考えているのか分からない変人、誰とも仲良くなれない変わり者、ギークと扱われていたザッカーバーグ氏が、人と人を繋ぐ、コミュニケーションのツールで世界を席巻するというのは何とも皮肉なもので、現代のネット時代におけるコミュニケーションの本質を改めて考えさせられるように感じる。

さて、本書はとても良く出来たドキュメンタリーではあるが、一つ致命的な弱点がある。それは、本書の取材に、主役マーク・ザッカーバーグ氏が一切関与していないことである。

著者のベン・メズリック氏は巻頭言で、同氏がザッカーバーグ氏に何度も取材を申し込んだが全て断られたと書き添えている。そしてその代わりに、ザッカーバーグ氏と共にfacebook社を立ち上げ「共同創業者」に名を連ねつつも同社を追われたエドゥアルド・サヴェリン氏に取材した旨記載されている。

そのため、facebook誕生の瞬間、ザッカーバーグ氏のシリコンバレーへの移住やNapster創業者のショーン・パーカー氏との出会いなどの重要な局面において、エドゥアルド氏の心境の回顧は登場するものの、肝心のザッカーバーグ氏がその時何を思っていたのかが、まったく記されていないのだ。

エドゥアルドだけではない。初代facebook社長を勤めたが自身の逮捕によりその座を追われたジョーン・パーカー氏や、ハーバード大でのライバル達、それぞれが自身の立場や気持ちを表明しているのだが、中心にいるはずのザッカーバーグ氏だけが、感情のない、ロボットのような描き方をされている。

他人に自分を見せず何を考えているか分からないというザッカーバーグ氏のキャラクターだからこそ、彼自身の回顧がなくても物語は成立しているが、やはり主役抜きでの進行は、やや寂しく感じられることは確かだ。

本書のキーワードの一つに「裏切り」がある。

マークは後にライバルとなり法廷闘争にまで発展した、ハーバード大のウィンクルボス兄弟を裏切り、共同創業者のエドゥアルドを裏切り、そして自身にとってスターであり初代CEOに任命したショーンを裏切ったことになっている。

だが、これら重要な記述が、「裏切られた」立場の人間の一方的回顧に沿ってストーリーが構築されるのはリスキーではないだろうか。

本書は非常に良く練られて取材もされた良書である。だが、だからこそ、本書に書かれた物語が真実なのかどうかは、しっかりと見極める必要がある。

本書には主役の顔がないのだ。それだけは忘れてはいけない。

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