早いものでこの読書記録も、もう四年目です。去年までは年間の読了冊数に目標を設けていましたが、今年は僕も色々と忙しそうなので、敢えて目標は設定しないことにしました。楽しく、有意義に、本を読んでいこうと思っています。
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00029 「ダンス・ダンス・ダンス」 上、下巻 村上 春樹 講談社文庫
読み始め 001213 読了 001220
コメント:○
テクニカルな修業のための再読。このあたりになると、春樹節全開という感じになる。要は、彼の中で一つのスタイルが確立されたということなんだろう。
00028 「羊をめぐる冒険」 上、下巻 村上 春樹 講談社文庫読み始め 001205 読了 001212
コメント:○
作者の技術を読むための再読。この作品あたりから、スタイル重視主義から、ストーリー重視主義へと移行しつつあるようだ。この作品、完成度が高いなあ。
00027 「1973年のピンボール」 村上 春樹 講談社文庫読み始め 001203 読了 001205
コメント:○
作者のテクニカルな部分を追及するために前作に続いて再読。なるほど、やっぱり細かいところに色々と工夫がある。それに、個々の挿話をコラージュ的に繋ぎあわせる手法もなかなか凝っている。読んでて感じる心地良さやスピード感には、なるほど理由があるのだ。
00026 「風の歌を聴け」 村上 春樹 講談社文庫読み始め 001202 読了 001202
コメント:○
前述した「そうだ、村上さんに聞いてみよう」で作者が語っていたなかで、小説の作り方の技法や語り口についての件が気になり読み返してみた。なるほど、確かに本人が言っているとおり、と妙に納得。短い小説にぎゅっと詰まったメッセージ(それもこっそりと)。なかなか素敵だ。
00025 「そうだ、村上さんに聞いてみよう」 村上 春樹 朝日新聞社読み始め 001129 読了 001201
コメント:○
村上朝日堂のウェブサイト上で読者と村上春樹の間でやり取りされた掲示板の抜粋集。すべて読者からの質問に村上春樹が答えるという形式。
アホな質問あり重い質問ありで、予想していたよりもずっと読みごたえがあった。特に村上春樹の人間、小説家としての考え方、作品についてのこだわりなどの点で、非常に励まされた。やはり何かを作る時には、「絶対いいものを」というこだわりが何よりも大切なのだなぁ。
00024 「日本とは何か」 日本の歴史00 網野 善彦 講談社読み始め 001121 読了 001128
コメント:○
講談社から現在発行されつつある、「日本の歴史」シリーズの第一巻というか、第零巻というか。
一部極端に左翼よりとも思える記述があってゲンナリしたりもしたが、それなりに楽しめた。特に、「日本」という国号がいつどのように使われるようになったか、や、日本と稲作の関係についての記述などは興味深い。日本は「単一民族国家」であるという誤った認識を正すためにも、もっと頑張ってあちこちで叫んでもらいたいとは思った。
00023 「海峡」 伊集院 静 新潮社読み始め 001116 読了 001121
コメント:◎
作者の少年時代の自伝的小説。幼い少年の心の動き、彼を取り巻く人々の生き生きとした描写、何もかもが素晴らしい。
00022 「荒神」 川上 弘美 文学界2000年12月号 文藝春秋読み始め 001115 読了 001115
コメント:△
万引を繰り返し壁土を食べ売春もする主婦の話。彼女には何故か冷蔵庫の下をうろちょろする小さな「荒神」さまが見えるのだそうだ。
どうしようもない物語なのだが、女性が描く女性像の場合、主人公の人格が破綻していてもそれなりに読めてしまうのは、現実にこういう女がいてもおかしくない、という、変なリアリティーがあるからなんだろう。
00021 「ミゼリコード」 飯塚 朝美 文学界2000年12月号 文藝春秋読み始め 001114 読了 001115
コメント:◎
文学界新人賞の島田雅彦奨励賞受賞作。作者は17歳の女子高生である。
「聖職者は祈りの間、この腰掛け板を上方に倒して起立していなければなりません。しかし早朝や深夜などはこの体勢が辛くなります。そこでこのような板を付け、疲れたときに寄りかかれるようにしたのです。(中略)」
「ミゼリコードと言います。直訳すれば『神の慈悲』」多少「蔦の絡まるチャペルで〜♪」みたいな雰囲気もなくはないのだが、それにしても重厚長大、すごいスケールの話だ。ストーリーの細かい部分を追及していけば、破綻している部分もあったりするのだが、そんなもの気にせずに、悩める若い心の迫力だけで胸がいっぱいになる。これは傑作だと思う。ただ、この作者に次回作を書く力があるのか、それが気にかかる。
00020 「看板屋の恋」 都築 隆広 文学界2000年12月号 文藝春秋読み始め 001113 読了 001113
コメント:○
舞台が三鷹駅南口であることを(僕の家からすごく近いということ)を差し引いても、非常に楽しい恋愛小説だった。コミカルでテンポのある文体と、主人公のちょっと斜に構えて暗い性格もよかった。ただ、前半から中盤にかけてすごくいいのに、後半から終盤に向かって尻すぼみになってしまうのが残念。あと、ヒロインの女の子の口調があまりにも不自然。武蔵野という響きがとても心地良かった。この作家の小説は、しばらく追っかけて読んでもいいかな、と思う。今後の活躍を祈ります(ここだけ敬語)。
00019 「希望の国のエクソダス」 村上 龍 文藝春秋読み始め 001109 読了 001112
コメント:○
ものすごく良かった。村上龍久々の大当たりという感じだろうか。「愛と幻想のファシズム」の路線を維持しつつ、ずっと緻密に丁寧に仕事をしているように思う。以前から村上龍の小説には強引に全体主義的にストーリーを誘導していくところがあってそれがちょっとイヤだったのだが、今回はそう言った強引さはまったく見せず、細密描写的な展開は破壊力もあり、美しくもあった。
セックスシーンが一度もなく、変態性欲者も一度も出てこない村上龍の小説というのは、実に久し振りのように思う。
00018 「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」 大江 健三郎 新潮文庫読み始め 001101 読了 001108
コメント:○
すごいタイトルだ。『教えよ』って言われてもなー、などと不謹慎なことを考えつつ読み始めたのだが、なかなか面白い短編中編集だった。軽く連作のようにもなっていて、テーマはずばり「狂気」。大江健三郎のこのゴツゴツした重苦しさが、何とも言えず好きなんだよなぁ。こういう重くて消化しにくい文章を書く作家というのは、もういなくなってしまいつつあるよなぁ。
00017 「天才五衰」 石原 慎太郎 「文学界」2000年11月号 文藝春秋読み始め 001011 読了 001011
コメント:-
文学界11月号の三島由紀夫没後30周年特集の寄稿集の中の一つ。創作ではないので評価の○×はつけない。
僕は三島由紀夫の小説があまり好きじゃない。あまり好きじゃないのだが、世の中での三島の扱いというのは非常に高く、戦後文学の最高峰として扱われていることも多い。彼の小説を多くの著名人達がどのように評価しているのかを読むことで、三島作品を僕自身が再評価するきっかけになればいいと思った。
が、石原慎太郎氏のこの文章を読んだ結果、僕が今まで三島作品に対して抱いていた、「嫌」な部分を、慎太郎氏がいとも簡単に理路整然と説明してくれた、という皮肉な結果になった。
ただ、残念なのは、三島由紀夫のキャラクターが強烈だったということもあってか、コメントは三島氏の作品に限定されることなく、作者自身の性質の問題に及ばざるをえないことだ。できれば、作者への言及は控えて、作品の特異性に光を当てて欲しかったのだが。
00016 「熱帯魚」 吉田 修一 「文学界」2000年11月号 文藝春秋読み始め 001009 読了 001010
コメント:○
実に久々に小説というものを読んだ(再読はしてたけど)。数カ月ぶりに読むには、非常にいい感じの小説だった。自分が小説を書こうとしている今、こういうレベルにある作品を読むというのは、非常に勉強になる。
作品としては、ややとっ散らかった感じもし、キャラの設定もややモタモタしたところもあるのだが、ストーリーの展開が早く心地良い。イベントの設定に、やや無理があるように思う。
僕はこの吉田修一という作者のことは何も知らない。ただ、こういうタイミングでこう言うものを読んだのも、ちょっとした縁だろう。また本屋で彼の作品を探してみよう。
00015 「ぼく。」 桜庭 和志 東邦出版読み始め 000614 読了 000615
コメント:○
プロレスラー桜庭和志の自伝。軽薄でばかばかしいこともたくさん書いているのだが、その中にキラリと光る名言がちりばめられていて、なかなか素敵。彼の努力の仕方の美しさというのは、実に独特で素晴らしい。
00014 「ぼくの哲学」 アンディ・ウォーホル 落石八月月訳、新潮社読み始め 000609 読了 000614
コメント:○
再読。ウォーホルのドライな世界観というのは非常に独特だと思う。泥臭さや努力、さらに主観すらをも否定してしまう彼の感覚というのは、読んでいて非常に心地良い。名言に満ちた作品。落石八月月(おちいしおーがすとむーん)氏の翻訳も最高。
00013 「ユリシーズ」 ジェイムズ・ジョイス 丸谷才一、永川玲二、高松雄一訳、全三巻 集英社読み始め 000425 読了 000608
コメント:◎◎◎◎◎
文字と音楽の融合、行動と思考の融解、あまりにも壮大な構想と、あまりにも複雑なプロットと、膨大な数の登場人物。
何からなにまでが凄い。まさに20世紀の文学最高傑作だと思う。
大学時代に、今回と同じ三人による、河出書房新社版の旧訳を読んだ時も、物凄い衝撃を受けたものだが、今回の新訳は、「ユリシーズ」訳の中でも、世界最高傑作なのではないだろうか。
これなら、三冊で12,000円も安いものだ。
00012 「道草」 夏目 漱石 岩波文庫読み始め 000417 読了 000424
コメント:○
夏目漱石が、「こころ」の後、そして遺稿となった「明暗」の前に書いた、半自伝的小説。
僕は夏目漱石の小説が大好きなのだが、小説の巻末についている解説を読んでしまうと、無意味な歴史的「ネタばらし」が多すぎて、幻滅してしまう。今回も、せっかく読んだ小説のネタをばらされてはたまらないので、解説は読まずに済ませた。
特にエキセントリックな登場人物がいるわけでなし、ドラマティックな展開があるでなし、何ということもない小説なのだが、実に味がある。細かい展開や配置が、いかにも漱石という感じで、僕は非常に気に入った。50歳ぐらいになってから読み返すと、もっと味わいがあるのかもしれない、と思った。
00011 「遅れてきた青年」 大江 健三郎 新潮文庫読み始め 000408 読了 000416
コメント:○
少年時代に終戦を向かえ、「戦争に遅れて」生まれてしまったと思い込んだ青年が、選民意識に支配されたまま成長し、アイデンティティを喪失した時代の中で、どんどん追い詰められていく、というお話。
終戦直後の少年時代と、同じ主人公が成人した後の、二つの章からなる小説だが、僕は終戦前後の時代の描写がとても好き。
大江の小説は、やっぱりとても好き。
00010 「ポップアートのある部屋」 村上 龍 講談社文庫読み始め 000406 読了 000407
コメント:◎
作品中に、アンディ・ウォーホルを始めとするポップアート作品の写真を挿入した、ちょっと変わった感じの短編集というか、連作というか。
極めて私小説に近いスタンスを保ちつつ、微妙にフィクションの一線を越えないように作られていて、僕はかなり好き。村上龍本人は、短編はあまり好きではないようだが、僕は彼の短編は大好きだ。
00009 「神の子供たちはみな踊る」 村上 春樹 新潮社読み始め 000403 読了 000405
コメント:○
阪神大震災をキーワードとした連作。
新潮社は、やけに「連作」という言葉を重視していたようだが、そこにそれほどこだわる必要はなかったのではないか、と感じた。
出だしは不調で、どうなることかと思ったが、最後に向かうに従ってどんどんテンションが上り、最後はかなりの出来に仕上げていると思う。
もし意図的に出だしのテンションを下げているとしたら、しかもそれを、村上春樹というネームバリューのもとに、「必ず最後まで読んでもらえる」という確信を持って行っているとしたら、それはすごいことだと思う。
三人称で主人公を描く村上春樹というのは、なかなか新鮮だ。
00008 「ノルウェイの森」 上、下巻 村上 春樹 講談社文庫読み始め 000208 読了 000213
コメント:◎
再読。
00007 「ダンス・ダンス・ダンス」 上、下巻 村上 春樹 講談社文庫読み始め 000201 読了 000207
コメント:◎
再読。
00006 「羊をめぐる冒険」 上、下巻 村上 春樹 講談社文庫読み始め 000125 読了 000131
コメント:◎
再読。
00005 「1973年のピンボール」 村上 春樹 講談社文庫読み始め 000120 読了 000124
コメント:◎
再読。
デビュー作「風の歌を聴け」に較べると、ぐっと落ち着いていて、村上春樹節の原形が徐々にでき上がっていったのが、この作品だと思う。
謎めいている部分あり、やたらとカッコつけている部分ありで、僕は結構好き。
00004 「幻の光」 宮本 輝 新潮文庫読み始め 000116 読了 000119
コメント:○
初期の短編集。
宮本輝の作品というのは、どれも実に読ませるのだが、この作品集もまったく読ませてくれた。
ただ、これも宮本輝の小説につきまとうことなのだが、どうしても男と女という部分が過剰にクローズアップされているような気がしないでもない。それが時折昼メロ的な色彩を与えることになる。
まあ、なんだかんだいってもすごく面白かったんだけど。
00003 「螢側・泥の河」 宮本 輝 新潮文庫読み始め 000112 読了 000115
コメント:◎
再読。
宮本輝のごく初期の作品。僕は特に泥の河が好き。生まれた年も育った環境も僕とはまったく違うのに、幼年時代のちょっとした恐れや憧れと言った、世代や場所を超越した部分で、十分に僕に原風景的なものを見せてくれる。名作。
00002 「風の歌を聴け」 村上 春樹 講談社文庫読み始め 000111 読了 000111
コメント:◎
再読。
村上春樹の凄い(と僕が思う)ところは幾つかあるのだが、その一つに、「誰にでも書けそうな文章をあたりまえのように書く」という能力があると思う。要は文章が非常に平易で読みやすいということなのだが、これが彼の文章を真似て書いてみようと思っても絶対に彼のようなスピード感が出ないし、物語が陳腐になってみたり、あまりにも彼のコピーになってしまったりと、なかなか簡単ではない。
最近友達とも話すのだが、村上春樹によって完成されてしまっている現代文学は、とりあえず時代が一つ進むまでは、彼を脅かすような作家は現れないのではないだろうか。そんなことを感じてしまう。
これは彼のデビュー作。ちょっと肩に力が入っているけど、その分クールでカッコイイ。
00001 「遠い太鼓」 村上 春樹 講談社文庫読み始め 991222 読了 000110
コメント:◎
再読。
村上春樹のエッセイというか、旅行記と言うか。
自分が小説を書くようになってから、この本は僕にとって、ある意味でバイブルのような存在になっている(僕はキリスト教徒じゃないから聖書なんて持ってないんだけど)。
この本は3年に渡る村上春樹夫妻のヨーロッパ滞在記なのだが、この滞欧期間に村上春樹は、「ノルウェイの森」を書き始め、書き終わり、出版され、時代の寵児となった。彼自身はそんな日本での大騒ぎから離れ、ギリシャやイタリアをふらふらと放浪しながら小説を書いていたわけで、まだ売れっ子になる前の彼の言葉や、小説を書くという行為に対しての彼の基本姿勢のようなものがたくさんちりばめられていて、ものすごく勇気づけられる。
文庫本が読み過ぎてボロボロになってきたぞ。そろそろハードカバーを買うべきか。
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