知的生産の効率をいかに上げるか。
答えのない問いのように思える。
何故なら、「知的生産」と一言で言っても、そこには様々な職種があり、業務があり、スタイルがあるからだ。
工場で決まったラインで製品を作る場合には所要時間が秒単位で決まっている。
だが、デザイン、研究、マーケティング、研究と言った知的生産の世界には、「次にボルトを締めて、その後はこの部品をはめ込み、次の工程へ渡す」というような決まった手順は存在しない。
だが、もし知的生産先般の生産性を劇的に向上させる共通の手法があるとしたら、魅力的ではないだろうか。
本書「イシューからはじめよ」は、そんな僕たちの悩みに大いなるヒントをくれる、チャレンジングな一冊だ。
イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人 英治出版 2010-11-24
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イシューとは何か
英語が得意な人、特に外資系などでビジネスに英語を使う人にはお馴染の単語、”issue”。
だが、日本ではこの英単語を正しく解釈して使う場面はますない。
従って、まずはIssue、イシューとは何なのかを定義するところからスタートする必要がある。
本書冒頭では、「イシュー」をまず分かりやすく、以下のように説明している。
「何に答えを出すべきなのか」についてブレることなく活動に取り組むことがカギなのだ。
また、本編において、以下のように再度定義されている。
- 2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
- 根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題
整理しよう。
そもそも生産性を測る前に、僕たちは根本的には、いかに価値のある仕事をしたかを問われる。
いくら生産性が高くても、やっている仕事の内容にまったく価値がないのであれば、その仕事は評価されない。
では、価値のある仕事とはどんな仕事か。
そこで重要になるのが、「イシュー度」、つまり、どれぐらい問題に答えを出す必要性が高いのかということと、「解の質」、つまりそのイシューに対してどれくらい明確に答えを出せているのかの度合いの二つだ。
イシュー度も高く、解の質も高い仕事こそ、高く評価されることになる。
良く考えれば当たり前だ。
分かりやすい言葉で言い換えれば、「みんなが凄く困っている大問題」に取り組み、「皆が思わず拍手喝采を送りたくなるような」明快な答えを出した。
これが価値ある仕事、つまりバリューの高い仕事ということになる。
根性に逃げるな!
バリューの高い仕事をして結果を出す。圧倒的な生産性で高いバリューの仕事をこなす。
そのためにはどのようなステップを踏めば良いのだろうか。
著者はここで、「『犬の道』に踏み込むな!」と力説している。
犬の道とは何か。
「イシュー度」と「解の質」を両方高めたいと願う時に、まず「解の質」を高めて存在感を出し、その後イシュー度の高い仕事をしようというアプローチ、これを犬の道と呼ぶ。
具体的に言うと、「大して重要でもない仕事を大量に抱え込み、物凄い勢いでこなしているうちに、仕事の質が上がって重要な仕事ができるようになるだろう」という考え方だ。
著者は以下のように説いている。
世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは、実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない。世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ。
つまり、世の中で本当の問題と思われていない、どうでもいい仕事に取り組んで必死に答えを出しても、あなたのバリューは上がらず、ただぐるぐると仕事を回し疲弊していくだけだ、ということを説いている。
いくら根性や体力があっても、価値ある仕事ができなければ永遠に認められることはないし、自分の力も上がっていかず、やがて仕事は荒れてしまい、いつか「ダメな人」のレッテルを貼られることになる。
では、そうならないためにはどうすればいいのか。
仕事を始める前に、とにかく徹底的に自分の仕事でイシュー度が高いものは何かを考えることだ。
その時に取っ付きやすさ、始めやすさに目を奪われてはいけない。100のうち本当に価値あるものが2、3しかないとしても、その周辺にある10個くらいまでは絞り込んでからスタートしよう。
これだけで、1案件あたりにかけられる時間は10倍になっているわけだから。
イシューを見極めよ!
人間は課題や問題を発見すると、すぐに対応したくなってしまう生き物だ。
だが、重要なのは、「この問題は本当に今解決する必要がある問題なのか?」を考えること。
そしてもう一つ大切なのは、「この問題に取り組んだ時、自分には解決する手段があるのか」を予測することだ。
答えを出すことができない案件に取り組むことは、時として膨大な時間を捨てることになる。
特に研究分野などで、解を出すことが不可能と思われる分野に矛先を向けてしまうと、悲惨な結果を生むケースもあるので要注意だ。
本書では、良いイシューを、以下の3つから定義している。
- 本質的な選択肢である
- 深い仮説がある
- 答えを出せる
どんなに本質的で深い仮説があっても、答えが出せないイシューは、良いイシューではないのだ。
まとめ
問題解決への取り組み方として、本書が説く「イシューから始めよ」は常に頭に叩き込んでおきたい重要なキーワードである。
難しい言葉を使わなくても、僕らの日常の仕事や生活でも、つい「根性に逃げて」いたり、「犬の道に迷いこんで」いるようなケースは多い。
たとえば新規開拓営業をしているとしよう。
担当者がとっつきにくくとてもやりにくい感じだが、規模が大きくポテンシャルが高い顧客と、とても愛想が良く美人の担当者だが、ごくごく規模が小さく発注規模が見込めない顧客。
この二つのどちらに先にアプローチすべきか、判断を誤る場面は意外と多いのではないだろうか?
本書では、「良いイシュー」を発見したあとに、以下にバリューのあるアウトプットを残すかまでの道筋を示してくれている。
問題点を発見しただけでは終わりではないのだ。見つけた問題を以下に劇的な効率で解決するかが、本書のテーマであり目的なのだ。
僕の力量ではとても本書のすべてを短い文章に取りまとめることはできない。
もし「イシュー・ドリブン」な取り組みに興味を持たれたなら、是非本書を手に取ってみて欲しい。
あなたの仕事への取り組み方を大きく変える力を持つ本かもしれない。
イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人 英治出版 2010-11-24
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著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。