書評

すべての迷えるリーダーと、これからリーダーを目指す人に捧ぐ — 折れない自分のつくり方

書評
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世の中には「リーダーが書いた本」が溢れている。

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名経営者が著した経営哲学の本、新進気鋭の経営者が書いた自己研鑽の本。

言葉は力強く信念に満ち溢れ、僕らを導いていく。

 

 

そういった本は確かに必要だ。高い志に触れモチベーションを高め、信念や自己実現を自分のものにする助けにもなるだろう。

でも、僕はそういった「名著」に触れるたび、少しだけ後ろめたい気持ちになった。

「僕にはそんな偉いことは言えない。僕はリーダーとしては失格だ」と感じてしまうのだ。

 

 

先週一冊の本を読んだ。そして僕は、「この本と15年前に出会いたかった」と、強く願った。

もちろん時間は不可逆的に進むので、僕の願いは叶わない。

叶わないことを願うのは合理的ではない。普段ならそう割り切れるのに、今回は割り切れなかった。

それぐらい深く僕の心に刺さった。ぐさりと抉るように刺さったのだ。

読んでいて何度も涙が溢れた。過去の自分と著者小倉広さんの言葉がオーバーラップするのだ。

 

 

本のタイトルは「折れない自分のつくり方」。

 

 

折れない自分のつくり方小倉広 フォレスト出版 2012-06-22
売り上げランキング : 25372

by ヨメレバ

 

 

帯にある言葉がすべてを語っている。「迷える99%の上司に捧げる」。

そう、僕はまさに、迷える上司だったのだ。

では早速紹介しよう。

 

 

 

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「上司」になった瞬間にやってきたイバラの道

この本は、「揺れるリーダー」の本である。

リーダーの経験をしたことがない方にはピンとこないかもしれないが、リーダーとは揺れるものなのだ。今では僕もそう断言できる。

揺れないリーダーもなかにはいるだろう。でも、圧倒的多数、ほとんどのリーダーは迷い、揺れ、そして苦しむのだ。

 

 

僕自身にも嫌というほど経験がある。

それまでは「同僚」だったメンバーから自分が抜擢され、上司の立場に変わる。

新米マネージャーとして、使命感に燃えてチームを引っ張っていこうと張り切る。

ところが、部下がついてこない。

 

 

指示したことを期限までにやってこない部下。

いつまで経っても仕事の精度が上がらず、ミスを繰り返すメンバー。

イライラして部下を叱責すると、その場は謝るものの、確実に空気は冷え込み、関係はぎくしゃくしていく。

どうしたらいいのか。

上司は一人揺れ、迷うのだ。

 

 

そして「厳しくしすぎた」という自分への反省から、今度は部下の顔色を伺うようになる。

部下を叱責することができなくなり、甘い言葉しか言えなくなってしまうのだ。

小倉さんはこのように書いている。

 

「右から左へ、正反対の方向へ、私は振り子を動かした。

そして私は、自分の立ち位置が見えなくなっていった。振り子の正しい着地点が、分からなくなってしまったのだ」

 

部下の顔色を伺い、本来言うべきことが言えなくなってしまった上司は最悪の存在だ。

だが、僕にも経験があるから分かるのだが、新任マネージャーは「厳しい」と「甘い」の2つの軸の間を揺れまくるものなのだ。

今まで多くのリーダー論、リーダーシップ本を読んできたが、この「上司の心の揺れ」を、ここまでストレートに告白している本には僕は初めて出会った。

読んでいて思わず涙が込み上げてくる。

そう、僕自身マネージャーとして悩み苦しんだ日々は本当に辛いものだった。

自分と同じように悩み、苦しみ、そしてそこから成長した人がいて、しかもその悩んだ姿を本の形にしてくれたことが、本当に嬉しかった。

立派なリーダーばかりで、自分はダメなリーダーだったとずっと思ってきた僕にとって、この本の言葉は、救いのメッセージであったのだ。

 

 

 

信念がリーダーを変える

強制してもダメ、迎合してもダメ。

では、リーダーはどうするべきなのか。

答えは本書にある。

それは、「自分の信念だけを見て、1万回でも言い続ける」ことだ。

 

 

この本では長野県のタクシー会社社長のエピソードを紹介している。

今から40年近く前、長野県でタクシー会社を興した28歳の若い社長がいた。

タクシー業界は当時は「サービス業」とは言えない状況で、運転手には荒くれ者が多かった。

社長はお客様を大切にすることこそがミッションと信じ、全ての車の後部ガラスに「私はお客様を大切にします」という宣伝板を貼った。

運転手達はその社長の指示に反発し、営業所を出るとすぐに宣伝板を外してトランクに放り込んだ。宣伝板はマジックテープで固定されているだけだったので、簡単に外せたのだ。

幹部社員が宣伝板を外している運転手たちを発見して社長に報告し、ネジ止めなど、板を外せないように変更しようと進言した時、社長はこう言った。

 

「それはダメだ。固定してしまっては意味がない。無理やり強制しては意味がないんだ。マジックテープのままにしておこう。

こっそり外されてもいいんだ。たとえ反対されても、こっちは変わらずに言い続けるだけだ。何回でも何十回でも。わかってもらえるまで私は一万回でも言い続けるつもりだ」

 

部下に強制はしない。だが自分の持つ「お客様を大切に」というビジョンを撤回したり部下に迎合したりもしない。

自らの信念を貫き、それを言い続ける。強制も迎合もせず、だが諦めずに言い続ける。これこそが「軸がぶれない」リーダーの姿だ。

このタクシー会社では、社長の言葉にやがて、一人また一人と宣伝板を外す運転手が減り、やがて運転手はみな清潔なユニフォームにネクタイ姿、車から出て乗客を立って迎え、雨の日は傘を差し出すという素晴らしいサービスを実現したという。

会社は今では長野県でシェアNo.1を独走し、予約が80%を占め、客待ちする暇がない状況となったという。

そして、それら徹底したサービスは、運転手たちは強制されて行っているのではない。

社長の示す「信念」に共感し、自発的に行われているのだ。

 

 

自らの信念があれば、揺れたり悩んだりすることはなくなっていく。

本書では、このタクシー会社の例のように、小倉さん自身が触れた多くの素晴らしいリーダーの言葉を引用しながら、小倉さんが苦しみもがきつつ身につけてきたリーダー像について、丁寧に説明してくれる。

 

 

 

揺るぎない自己を確立せよ

「言行一致」という言葉がある。

リーダーは、より高い成果を上げてチームを引っ張りたいと願うものだ。

すると、当然メンバーに対する要求は高いものとなる。

その時、要求しているリーダーが言行一致できていなかったら、メンバーは誰も付いてこない。

毎日のように遅刻している上司が、遅刻してきた部下に「遅刻をするな」と言っても説得力はまったくない。

デスクの上がぐちゃぐちゃの上司が、部下に整理整頓の大切さを説いても部下は納得しないだろう。

整理整頓にしても早寝早起きにしても、一つ一つリーダーは部下のお手本となり自らが率先してやっている姿を見せ、その上で指導をして、初めて効果を生むのだ。

そして実際に整頓された机で仕事をする快適さと効率の良さ、早寝早起きによる体調の良さと仕事のリズムの良さなどをリーダー自身が体感することで、自然とお手本のような生活を身に付けていくのである。

 

 

リーダーという役割は孤独だ。

小倉さんはこのように書いている。

 

「誤解され、誹謗され、中傷を受けることもあるリーダーは損得で考えたなら「やっていられない」ほど損な役回りだ。投げ出したくなることだってきっとあるだろう」

 

だが、小倉さんは続けてこのように言っている。

それでもなお、リーダーになりなさい」と。

 

「なぜならば、リーダーという仕事は、人のために生きる仕事だからだ。皆のため、チームのために尽くす人になることなのだ。味わうことができる「幸せ」も大きく深いものになる」

 

リーダーとは厳しい仕事だ。だがその代わりに、自らの信念を示し前に進むことができるという特権を持つ。

一言で言えば、「自分が掲げる理想に向かって突き進む」ことができるのだ。

昨今「リーダーは損な役回りだから管理職にはなりたくない」という若者も増えているという。

リーダーには辛いことも多いが、素晴らしいこともたくさんある。

損得勘定だけで尻込みせず、是非チャレンジしてもらいたい。

 

 

 

まとめ

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僕自身、24歳で会社員となり、平社員だったのは2年間だけだった。17年間のサラリーマン生活のうち、実に15年は部下がいたことになる。

この本で小倉さんが告白しているのとまったく同じように、僕も軸から軸へとぶれ、悩み、そして苦しんだ。

プレイング・マネージャーだった時には、部下と競争してしまい部下に圧勝、結果として部下は自信をなくして退職してしまったこともあった。

厳しくしすぎて離反され、どうしていいか分からずに迎合してなめられ、上向かない業績に地団駄を踏んだ。

この本を読むまでは、あの時代は僕にとっては暗黒時代だった。

封印して心の一番奥にしまい込んで、二度と目につかない場所に隠しておきたいと思っていた。

でも、この本を読んで心からホッとした。僕以外のリーダーも苦しんできたんだ、と分かったからだ。

そしてその結果、僕は自分のリーダー時代の仕事を、ようやく認められるようになってきた。

どん底の状態の会社をV字回復させるために死ぬほど頑張ったと、自分を褒めてあげられるようになったのだ。

 

 

この世の中には数え切れないほど多くの組織があり、そこにはリーダーがいる。

課長もいれば部長もいる。もちろん会社を率いる社長もいる。

そして、僕は想像する。世の中には僕のように、苦しんでもがいているリーダーがたくさんいるだろうと。

そんな全ての迷えるリーダーに、この本を読んでもらいたい。

そしてこれからリーダーを目指す若い力にも、是非この本から多くのことを学んでもらいたい。

リーダーが書いたリーダー論に、ここまで「失敗する自分」をさらけ出したものはないだろう。

著者小倉広さんのその勇気と懐の深さに心からの敬意を表します。

本当に素晴らしいご本でした。

オススメ!

 

折れない自分のつくり方小倉広 フォレスト出版 2012-06-22
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