ブックレビュー2011年の20冊目はオガワカズヒロ氏著、「ソーシャルメディア維新」を読了。
ソーシャルメディア維新 ~フェイスブックが塗り替えるインターネット勢力図~
オガワ カズヒロ 毎日コミュニケーションズ 2010-10-23
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目から鱗が落ちたとはまさにこのことだ。
このエントリーの冒頭にも書いた「なぜGoogleはFacebookを恐れるのか」。このテーマについて僕は完全に誤解していた。いや誤解というよりは無知だった。
GoogleとFacebookの関連性とは何か。ともにインターネットで個人に対しては無料でサービスを提供し、企業に対して広告料を徴収して収益を上げている。ここは共通の項目だ。
だが、かたやGoogleは検索エンジン、もう一方のFacebookはSNS。ネットという共通項はあるものの、両者は異なるフィールドで活動をしているのだから、GoogleとFacebookが勝負する場所など、もともとネットには存在しないのではないか。僕はそう思っていた。
だが、それは大きな間違いであることに気づかされた。Google vs Facebook、そしてGoogle vs Appleという闘いは、まさにネット上で今一番熱い覇権争いを繰り広げていたのだ。
毎日GoogleとAppleとFacebookに触れながら、そのことにまったく気づかなかった。情けない。
Facebookは全世界で6億人ものユーザーを抱える、世界最大のSNSである。人々は朝起きるとまずFacebookにログインしてメッセージを確認しウォールを眺め、オンライン上に友達がいればチャットする。友達も恋人も親や曽祖父までもがFacebookにいる。アメリカやヨーロッパなどではFacebookはもはやインフラと化している。
Facebookには個人のサイトの他に企業もファンページを持っていて、その企業や製品のファンの人たちはせっせとファンページに登録し、さらにページ内の製品やサービス情報に付与された「いいね!」ボタンをクリックしていく。
例えば僕がA社のBという製品の「いいね!」ボタンをクリックしたとする。すると、僕がA社のBを「いい」と判断したという記録が、僕のウォールに表示され、僕のフレンドの人たちに見えるようになり、リンクまで張られる。ここが肝なのだ。
Googleの描いたビジネスモデルでは、人々は何かしらの製品やサービスを探す時には検索エンジンからスタートする。なので検索結果の脇にターゲット広告を表示することで、ユーザーはその広告をクリックするという形であった。
ところが、人々がFacebookの中で活動を完結してしまうようになると、人々はわざわざFacebookから出てきてGoogleに移動して検索をする、という活動をしなくなってしまうのだ。何故ならFacebookの中にはたいていの製品やサービスのファンページがあるし、仲の良い友達がウォールに書き込むお奨め製品から選んだほうが、一人で試行錯誤するよりずっと確実だと感じるからだ。
日本ではまだFacebookの利用者は少ないため、上のような話をしても実感が持てないだろう。だが、ユーザー数が1億5,000万人いるアメリカのことを考えてみて欲しい。国民の2人に1人はFacebookにいるという状態になったとき、E-Mailもしない(Facebookのメッセージならアドレスを打つ必要がなくて楽だから)、ブログも見ない(Facebookのウォールに仲良しのブログエントリーは流れてくるから)、とい人がどんどん増えてもまったく不思議ではない。
Googleがソーシャルメディアを恐れるもう一つの理由は、ソーシャルメディアの持つ圧倒的なスピードに、Googleの検索エンジンのデータベースのスピードが着いていけないからである。
TwitterやFacebookのタイムラインやウォールは刻一刻と変化している。グルーポンのような、24時間限定値引きを謳い、意図的にバイラル・ループを煽るサービスもどんどん登場し、そのリアルタイム性は強まるばかりである。
GoogleはTwitter検索を独自技術で完成させることができず、結果としてTwitterと技術協力し多額の費用を支払うことでTwitterのTLのリアルタイム検索を可能にした。TwitterやFacebookの中にいる人たちからすれば、何もわざわざGoogleへ出かけていって検索をする必要はないのであって、ここにおいてもGoogleが置き去りにされるという事態が発生してきているわけである。
そしてもう一つGoogleがFacebookを恐れる理由、それはFacebookが持つ膨大な個人情報である。Googleはユーザーが検索をした結果を広告に反映させる形でビジネスを展開している。だが、Facebookでは、ユーザーが登録時に性別、年齢、住所、独身か既婚か、趣味は何かなどの個人情報を入力するよう促している。
そしてFacebookでは実際にこれらの個人情報に基づいたターゲットにふさわしい広告を表示させることにより、ユーザーにより直接響く広告を提供しようとしているのである。しかもFacebookはクローズドなSNSなので、それら個人情報はGoogleの検索にはひっかかってこないのである。
こういった状況と、ほぼユーザー数やアクセス数の延びが止まりつつあるGoogleと、爆発的な延びを見せ続けるFacebookを比較すれば、Googleが何らかの形でソーシャルメディアに食い込んで挽回したいと願うのが当然と見るべきだろう。
実際GoogleはバズやWaveなど、様々なSNS的サービスをスタートさせてきているが、今のところ成功には結びついていないのが実情だ。
Facebookはまだまだマネタイズの手法が未熟で、収益性はGoogleの足下にも及ばないという。ならば今のうちにFacebookをたたき落としたいとGoogleは願っているだろう。
誰にも追い付けないと思っていたGoogleを既に追い抜いてしまったFacebook。10年後のネットの世界がどうなっているか。今から楽しみだ。
著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。