書評

せどりの真実! 書評「大金持ちも驚いた105円という大金」 by 吉本安永

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「せどり」という言葉をご存知だろうか。

街の古書店で安く仕入れた古書をアマゾンやヤフオクなどのネット書店に転売し、差益を得る行為のことだ。

せどりで生計を立てている人もいるということは以前雑誌かネットの記事で読んだことがあり、そんなビジネス形態もあるのか、と漠然と思ったのだが、今回たまたま本書「大金持ちも驚いた105円という大金」の存在を知り、興味本位で手に取ってみた。

 

大金持ちも驚いた105円という大金

吉本 康永 三五館 2009-05-22
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by ヨメレバ

 

 

この本は、長年学習塾講師として勤めてきた還暦を迎える男性が、4,000万円のローン返済と少子高齢化に伴う塾からの収入減少を補うために、副業とし「せどり」を開始し、アマゾン・マーケットプレースで本を転売するネット古物商を開始してから軌道に乗せるまでの実話である。

コンピュータの知識もなく、ネット通販等の利用経験もない著者が、見様見まねで「せどり」を開始してから徐々に規模を拡大し、ついには副業だけで月商150万円にまでなるわけだが、せどりをビジネスにするのは、そう簡単なことではないということが良く分かった。

北関東在住の著者は、主にブックオフで古本を仕入れるわけだが、基本的に塾の授業がない日は朝一番から夕方までずっと古書店で「せどり」をする日々を送っている。

そして朝晩は注文が入った本をクリーニング、梱包して発送したり、新たに仕入れた本を出品したりという業務が続く。

買ってきた本がすぐ売れるわけではないので、自宅には古書の在庫がどんどん積み上がり、在庫が5,000冊を越え、床が抜けるのではという心配をするほどになってしまう。

5,000冊もの本の中から注文の入った本を探すだけで一苦労。しかも本は重いのだ。腰や腕に負担が掛かる重労働である。

さらには本のコンディションが悪かったり、カバーと中身が違うなどのクレームも入る。自分が読んだ本を出品している限りそのようなことは起こりにくいが、他人が読んだ古本を買ってきて転売するため、蛍光ペンや書き込みを見落として「状態良好」で出品してしまうなどの問題も発生する。

それら過酷な環境に加えて、読んでいて最も大変そうだと感じたのは、せどりは孤独な作業だということだ。

日中何店舗も古書店を巡っても、基本的には常に独り書架に向い価格を調べる日々。帰宅後も黙々とPCに向かう作業。著者の場合は奥様が手伝ってくれているのが救いだが、家族の支えがなければ、一日誰とも話さないという状況も発生しやすいという。

著者自身も、せどりは若い人にはやって欲しくない商売だ、と打ち明ける。せどりは決してクリエイティブでも楽でもない、孤独で厳しい仕事なのだ。

だが、そんな重労働ではあっても、60歳を目前に控えた初老の男性であっても、スタートから2年で1,700万円の売上を叩き出すのが、まさにネットの時代。ロングテールである。

著者は過去に何冊か本を出版した経験もあり、読書家でもあったため、比較的楽しみながら本と格闘できた点はラッキーだった。

また、向上心が強い性格が幸いし、徐々に取り扱い単価の高い本をうまく見つけられるようになり、同じ販売冊数でも売上金額が向上していくのも追い風になった。

著者はローン返済のメドも立ち、ようやく安心して生活ができるようになったという告白で本書は終わる。

僕自身過去にアマゾン・マーケットプレイスで古書を買ったことが数回ある。アマゾンという巨大で冷淡なグローバル企業の裏側には、こんな一個人の孤独な作業が隠されていたのだと改めて認識した。

ネット古書店を見る目が確実に変わった。とても良い本だった。

 

ブックレビュー2011年の31冊目でした。

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