勤めている会社を辞めて独立しようと考えている人。
フリーランスで働いていて組織化しようという人。
そして、今まで世の中になかった斬新な技術やサービスを開発してベンチャー企業を立ち上げようという人。
本書「起業のファイナンス」は、これから会社を立ち上げようという人に向けてのバイブルである。
起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと
磯崎 哲也 日本実業出版社 2010-09-30
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「起業」とは言っても、本書は個人事業主をターゲットにした本ではない。サブタイトル「ベンチャーにとって一番大切なこと」とあるとおり、今後ベンチャー企業を立ち上げて投資家から資金を投入してもらい、株式上場などを目指し規模も拡大していこうという志の人々がメイン・ターゲットとなっている。
そして本書は今後起業する人達にとっての心構えや日本と海外、特にアメリカとの違いなどの基礎情報を提供してくれる本であるが、手順書やマニュアルの類いとは大きくことなる。
どの書類に何を書いてどこに持っていけ。その際の印紙は幾ら、というようなことが書いてあるわけではない。
起業は何か。資金調達とは何か。ベンチャーキャピタルとの付き合い方とはどういうことなのか。ストックオプションとは何か。
アメリカと較べると日本ではベンチャーで起業する人間が圧倒的に少なく、従って成功事例も非常に限定されている。
日本で年に数社、優れたベンチャー企業が現われるだけで、日本の経済状態は大きく変わるはずだ。そして起業をしてみたいという志を持ちつつも、何をどうしていいか分からない人にとって、本書は頼りがいのある右腕となるだろう。
さて、本書では非常に印象的な一文がある。ちょっと長いが引用したい。
「日本のベンチャー投資のGDP比が他の世界各国と比較して非常に小さい」というのは事実ですが、現在規制等によって、ベンチャー企業に資金が流れない構造になっているわけではありません。必要なのは「水道管」ではなく、水を欲しがる重要、すなわち「ベンチャーをやってみようという(イケてる)ヤツら」のほうなのです。
ご存知の方も多いと思うが、アメリカはベンチャー起業がとても盛んな国だ。GoogleやFacebookなど最近の話題になっている企業はもちろん、MicrosoftやAppleなども若者たちが夢中になって最新技術を開発し、一気に世界規模の企業に発展していった。
一方で日本ては、2000年以降のネットバブル期に一斉にベンチャーが立ち上がった時期があったが、それもごく一時的なもので、最近ではIPOの話さえあまり聴かなくなってきてしまった。
著者磯崎氏は、そんな日本の状況の中、起業に対する上質の情報が日本には圧倒的に不足しているとして本書を書いたわけである。
「なぜ今ベンチャーなのか」というタイトルのついた序章では、日本におけるベンチャー起業の現状とアメリカとの比較、そして問題点の提示などが行われ、続く第一章では「ベンチャーファイナンスの全体像」が提示される。
僕自身はベンチャー企業を作って大きく育てようと考えているわけではなかったのだが、家族経営であれ個人事業主であれ、起業する人は知っておいて損はない情報が満載で興味深く読めた。何故ベンチャーは株式で資金調達をするのか。何故株式会社を作るべきなのか、といった、知っている人からすれば「そんなことも知らないのか?」というような原則的な話を噛み砕いて説明してもらい、ようやくその辺りの基本的なことが理解できた。
そして第二章以降では、「会社の始め方」、「事業計画の作り方」と進んでいくのだが、後半は「資本政策の作り方」、「投資契約と投資家との交渉」、「種類株式のすすめ」など、正直現段階で企業組織を作ろうと具体的に考えていない人間(僕)にとっては難解な部分が多かった。
だが、日本にとって、そして組織から独立して自分の脚で歩み始めようという人間にとって、著者が書く本書の役割「起業をイメージする」は達成できるのではないかと思う。
起業を予定している人も、「いつか起業したいな」という夢を持っている人も、一読して損はないだろう。
2011年ブックレビュー34冊目としてお届けしました。
著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。