書評

僕らの遥かなる挑戦! 書評「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」 by 橘玲

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人生とは不思議なものだ。

世の中にあまたある本の中から、どうして今この時期に、こんなにいまの自分にぴったりの、素晴らしい本と出会えるのだろう。

本当に不思議に思うと同時に、こうしたご縁に心から感謝したい。

 

詳しくは後日書くが、僕はいま、人生の大きな転機にいる。

事情が分からない方に心配をおかけしないよう補足すると、僕が迎えつつある大きな変化はとても良いものだ。

多くの方に応援され、祝福されている。

いずれにしても詳しくは後日書く。今はまだ時期ではない。

 

さて、本題に戻ろう。本の話だ。「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」である。

 

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

橘 玲 幻冬舎 2010-09-28
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by ヨメレバ

 

 

 

僕たちは幸せになれるのか?

 

 

実は本書は、読み始めるまで、あまり読む気がなかった。

どなたかのブログで書評が上がっていて興味を持ったのだが、煽るようなタイトルが鼻について、入手したもののいばらく手付かずで積ん読されていた。

だが、読み始めて驚いた。本書はまさに、今僕がもっともアンテナを張っている方面の話だった。

本書のテーマは、タイトルそのまま、「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」なのだが、それだけでは意味が分からないだろう。

かみ砕くと、本書で論じられているのは以下のテーマである。

 

  • 自己啓発は有効なのか
  • 「努力して成功する」は有り得るのか
  • 努力で自分は変えられるのか
  • 他人を操ることはできるのか
  • 現代日本で普通の人が幸福になれるか
  • 「「好き」を仕事に」は実現するか

 

本書は長い旅をするように、多くの視点から様々な考察を経て、最終章の最後のページに至って初めて結論が提示される本である。

だが、手に取っていきなり最後のページを開いても意味が分からない。しっかりと旅をして初めて著者の主張と論点が見えてくるのだ。じっくり腰を据えて読むしかない。

本書がいう「残酷な世界」とは、僕らが住む現代日本社会のことである。バブル崩壊後15年以上に渡る長い不況の中にあり、年間3万人以上の自殺者が出て、政治は混迷し、国の財政は破綻の危機にあり、国民は強い閉塞感を感じている。

そんな日本において、特別な能力を持たない、普通の人々、僕らのような人々が生き延びていくための方法を教えてくれるのが本書である。

 

 

努力すると本当に幸せになるのか?

 

 

本書の議論は「勝間和代」からスタートする。

勝間和代氏を代表とする多くの自己啓発書作家。彼ら彼女らは、努力して結果を出せば幸せになる、と僕らを導く。

だが、それは本当なのだろうか。本書はそこからスタートする。僕たち普通の人々は、本当に努力することで幸せになるのか、と。

一点強調しておきたいのだが、本書は決して勝間和代氏や他の自己啓発書作家を否定しているわけではないし、攻撃しているのでもない。

シンプルに検証しているのだ。努力すると本当に幸せになるのか、と。

そして議論は僕らの遺伝子へと向かう。多くの自己啓発書は「自分が変わることで相手も変わる。お互いがプラスのスパイラルを作って皆で幸せになろう」とあるからだ。

だが、僕らは本当に変わることなんてできるのか?僕ら人間は、いくら社会的に「変わりたい」と意識しても、無意識下にすり込まれたDNAが持つ本能には逆らうことができないのではないか。

著者は多くのサンプルを提示しながら検証していく。サンプルにはアダム・スミスからダーウィン、そしてジャイアンやらデキスギ君、さらにはしずかちゃんまで登場する。

 

 

「人を動かす」ことなんて出来るの?

 

 

さらに本書は自己啓発書に登場する「人を動かす」というテーマにも照準を当てる。本当に人を動かすことなどできるのだろうか。

その検証には第二次世界大戦中のCIAの研究からオウム真理教の洗脳活動、さらには大日本愛国党の党首だった故・赤尾敏氏とのエピソードまでを総動員して一つ一つ僕らがどのような時に他人によって動かされてしまうのかを検証する。

そして3つの視点からの僕らの努力と進化についての論証を終え、本書はいよいよ核心へと踏み込んでいく。それは、「僕らは幸せになれるのか」というテーマである。

この「残酷な世界」、つまり現代日本社会で、特別な能力や知識を持つわけでもない普通の人たちが、どうやったら幸せになれるのか、生き延びていけるのかを検証していく。

ここで本書は重要な資料を提示する。

 

 

日本人はもともと仕事なんて大嫌いだった!

 

 

アメリカの学者が行った、1989年頃、つまり日本がバブル絶頂期にあって時期の調査である。

その調査は、日米のサラリーマンに対して、「今の仕事は好きか」「もう一度就職するとしたら今の会社を選ぶか」「友達があなたの会社に入りたいと言ったら勧めるか」といったアンケートを行ったものだ。

回答には日米で大きな差が出た。何と、1989年当時の多くのアメリカ人サラリーマンが「仕事を満足」「今の会社を友達にも勧めたい」と答えているのに対し、当時の日本のサラリーマンの多くは「今の仕事が不満」「友達には今の会社は勧めない」と回答しているのだ。

この資料が示すことは、日本人は景気が悪いから不満を持っているのではなく、もともとの仕事や企業社会に対してずっと不満を持ち続けてきた、といこことだ。

単に高度経済成長からバブルに至るまでの時期は、右肩上がりで給与が上がり生活も良くなっていったので、かろうじて「我慢」していたに過ぎなかったのだ。

そのことは、「終身雇用の崩壊と日本型経営の終焉によって日本人の仕事環境が悪化している」というメディア報道自体を否定することになる。

日本人は昔も今も会社も仕事も大嫌いなのだ。

 

 

ムラ社会が招く悲劇を救うもの

 

 

著者は、この日本人の会社嫌いの理由を、ムラ社会のシステムを根源とする監視社会的職場環境にあると見る。

能力や資格ではなく、他人との協調性や学閥、世渡りの上手さなどを重視する昇進システム、さらに終身雇用を根幹とする硬直した人材マーケットは、ムラ社会からの離脱を許さない状況を作り出し、結果として、組織からの離脱は人生からのドロップアウトという状況を作り出していると述べている。

そんな僕らの前に提示された福音。それは高速インターネットとロングテール、フリーの世界である。

ここまで旅をしてきた読者だけが、何故ここでロングテールが登場するのかが理解できるようになっている。

この時代だからこそ示される、たった一つの解決策だ。

 

 

まとめ:残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

 

 

努力してもダメ、自分を変えることも、他人を動かすこともできない僕たち。そして会社によって幸福になる道も閉ざされてしまっている僕達。

そんな僕達は、企業から出て、一人一人が独立してやっていくことでしか、これからの日本で生き延びていくことができない。本書はそう結論づける。

そして「あとがき」の最後のページの一番終わりになって、ようやく「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」が提示されるのだ。

その結論を一言で表すことは不可能だ。その方法が知りたい人は、本書を読むしかない。

本書は多くの仮説を立て、それを膨大な資料を用いて証明するスタイルで結論を導いている。

もちろん多くの批判があり、反論があるだろう。数式のような正解がある論題を扱っているのではないのだ。

だが、本書を読了して、僕自身が現在進行形で行っているチャレンジが、まったく的外れなことではないのだ、という確信を持つことができた。

現代の日本は残酷な世界なのだ。そのことをしっかり認識して、闘っていこう。凄い本だった。

 

2011年46冊目の書評としてお届けしました。

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