人はなぜ箱に入るのか
箱の中に入った人は自分を守り正当化するために相手のことを考えなくなり、攻撃する。
でも、どうして人は箱の中に入ってしまうのだろうか。
この本では、トムとトムの上司バドが話し合いながら、その理由を突き止めていく。
バドとバドの奥さんナンシーの真夜中の会話が具体例として挙げられている。
バドは真夜中に目を覚ました。産まれたばかりの彼の息子、デイビッドの泣声で目覚めたのだ。時計を見ると午前1時だった。
この時、バドはまず「自分が起きていってデイビットをあやそう。そうすればナンシーは寝ていられるのだから」と考えた。
この時点でバドは箱の中に入っていなかった。彼は自分が奥さんのために行動することで、奥さんを寝かせておいてあげようと思ったのだ。
でも、バドは思った通りには行動しなかった。彼はそのままベッドで寝たふりをした。
つまり、バドは、自分が他の誰かのためにすべきと感じたことに背いた。
この行動を「自分への裏切り」と呼ぶ。
耳が痛い話だけど、僕らにも経験があるのではないだろうか。
一瞬のタイミングのずれで相手に対しての行動を取れないことが。
そして、自分を裏切った僕らの心には変化が起こる。
相手への攻撃と自分への正当化だ。
バドは自分が起きて子供をあやそうという行動を取るのをやめた瞬間から、奥さんのことを悪く考えはじめる。
「どうしてさっさと起きて子供をあやさないんだ」「どうせ昼だってのんびり過ごしているくせに」「ホントは起きてるのに寝たふりをしているんじゃないか?」と。
そして同時に、自分を裏切ったことを正当化しはじめる。
「自分は朝から必死で働いてきた。明日も朝一番から重要な会議があるから眠っておかなくては。自分は家族を養っているんだから眠る権利がある」などなど。
人間誰でも欠点はある。ナンシーにも欠点があるし、バドにもある。
ところが、自分を裏切ったバドは、ナンシーの持つ欠点を、バドが行動しない理由と結びつけはじめる。
ナンシーが「怠け者で思いやりがないひどい人間だ」とバドが感じたとして、それがナンシーの欠点なら、365日24時間いつもナンシーは「怠け者でひどい人間」であるはずだ。
でも、ベッドの中で、バドは「ナンシーが怠け者で思いやりがないひどい人間だから、自分は手を貸す必要はない」と考えはじめてしまう。
そして、それと同時に、自分のことを必要以上に偉くて勤勉な人間に仕立ててしまい、相手を攻撃する準備を整えてしまうのだ。
「勤勉で優秀な自分が疲れて眠りたいのに、怠けもので思いやりがない妻は寝たふりをして全然起きてこないとはどういうことだ!」という具合に。
そして、箱に入ったバドはナンシーを攻撃し始める。「俺を怒らせたお前が悪い」と。
だが、本来腹を立てるべき相手はナンシーなのだろうか?
違う。本当はバドはナンシーのために行動しようと思った自分を裏切った自分に腹を立てているんだ。
でも、箱に入ってしまったバドは、自分の欠点は全部隠してナンシーのことを攻める。裏切りものの自分を傷つけないために。
そして、この「自分への裏切り」行為は、だんだんとクセになってしまうのだ。恐ろしいことに。
バドは自己正当化のルートを心に作り、常に「自分は正しく相手が悪い」という意識を持つようになる。つまり、箱をいつも持って歩くようになってしまった。
そしてもう一つ重要な変化が起きる。
バドに攻撃されたナンシーは腹を立て、バドに反撃する。どちらが先だったかは関係なくなっていく。
そう、バドは箱の中から、ナンシーのことを箱に入るよう仕向けてしまうのだ。
箱の中にいる人間は周囲の人間のことも箱に入れてしまう。
そして、箱に入った相手も自己正当化をはじめて、相手を攻撃し始める。
家族が皆自分のことばかりを考えてケンカばかり。そういう状況を思い浮かべて欲しい。
全員が箱の中から、自分を守り相手を攻撃しているのだ。
そして、とても恐ろしいことだけれども、箱の中にいる人同士は、無意識に共謀したかのように、お互いが箱の中に留まるようにお互いを仕向けてしまう。
誰か一人が積極的に箱の中から外に出れば状況が変わると分かっていても、常に相手を責めることで、自分が責められる下地を作ってしまう。
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著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。