元ザ・ボディショップ、スターバックスコーヒージャパンのCEOを勤めた岩田松雄さんの「ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由」の書評。
世の中には多くの「ノウハウ本」が溢れている。
それらのビジネス書は「やり方」を教えるものだ。
そういった本は気軽に手に取られるので、ヒット作になりやすいのだと思う。
それに対して、この「ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由」は、タイトルのとおり、僕たちが「なぜ」働くのかを問う本だ。
働く理由。僕たちはなぜ働くのか。
それは「やり方」ではなく「あり方」だ。
「どんな仕事をするのか」でもなく「どうやって働き方を変えるのか」でもなく、「なぜ」働くのか。
骨太で無骨な本だったが、とても心に響く言葉が詰まっていた。
さっそく紹介しよう。
ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由 by 岩田松雄
仕事で「火花が散る瞬間」とは?
火花が散る瞬間。
岩田さんは新卒で日産自動車に勤め、そこで溶接工場を見学したときのことを回顧するところからこの本はスタートする。
岩田さんの上司は、「この工場で価値を生み出しているのは、あの火花が散っている瞬間だけなんだぞ」と岩田さんに言う。
火花が散る瞬間とは、ロボットアームで車体を溶接する瞬間にパチパチっと飛び散る火花のことだ。
工場にはさまざまな行程がある。
車体を運搬したり、向きを変えたり、部品を在庫したりと、さまざまなステップを経て、まだ塗装もされていない車体のパーツ同士が溶接される。
前後の行程がなければ車体を溶接することはできない。
しかし、「溶接をする」という行程こそが、この工場の一番の目的であり、その火花が散る瞬間のために、この工場は存在しているのだ。
その瞬間だけが、「価値を生みだして」いる。
岩田さんはそのことを学んだ。
ときは流れ、岩田さんはザボディショップやスターバックスコーヒーのCEOを歴任する。
それぞれの会社で岩田さんは、傾いた業績の会社を立て直し、そして飛躍させる任を担うことになる。
そのときに岩田さんがもっとも深く考えたこと。
それが、「この会社で火花が散る瞬間はいつ、どこだ?」ということだった。
お客さまに価値を生み出している瞬間はいつ、どこでだ?
自然派化粧品などを扱うザボディショップでは、お客さまを笑顔で送り出す瞬間、そしてスターバックスでは、お客さまにコーヒーを手渡す瞬間が、それぞれの火花散る瞬間と捉えた。
僕たち誰もが仕事をしていて、火花散る瞬間を持っている。
僕にとって火花散る瞬間はいつだろう?
ネット越しでも火花は散る。印刷された文字でも火花は散る。
セミナーやワークショップだとより捉えやすい。
自分の仕事がお客さまに最大の価値を与えている瞬間を意識しよう。
そのことを深く捉えることで、僕たちはきっと、何をするべきか、何を変えるべきかが、おのずと見えてくるだろう。
人を魅了する会社を支えるもの
スターバックスはなぜ長居する客を追い出さないのか。
スターバックスに対する顧客からのクレームで一番多いのは、混雑に対するものだという。
僕自身も何度も経験したことがある。せっかく来たのに混んでいて入れないとガッカリするし、他のお店を探すのも手間だ。
テーブルにはたくさんの、パソコンを開いて仕事をしている人、熱心に本を読んでいる人など、いかにも「長居」をしているお客がたくさんいる。
お店の売り上げを上げ、顧客満足度を上げることを考えれば、普通は長居している客に退店してもらい回転を上げることを考えるだろう。
でも、スターバックスではそれをしない。
その理由は、スターバックスにBHAGと呼ばれる、「社運を賭けた大胆な目標」として、以下が掲げられているからだ。
「人々の心に活力と栄養を与えるブランドとして世界でもっとも知られ、尊敬される起業になること」
このBHAGがスターバックスのスタッフたちに「ミッション」として浸透しているため、スターバックスでは長居する客を追い出さないのだ。
「私たちは人々のお腹を満たしているのではない。心を満たしているのだ」
これはスターバックス躍進の立役者だったハワード・ビーハー氏の言葉だ。
居心地の良い空間を作り、やってきた人にリラックスして過ごしてもらう。
結果として長居して過ごしていた客の多くがスターバックスのコアなファンになり、スターバックスに感謝してくれるようになる。
スターバックスはコーヒービジネスをしているのではなく、「ピープル・ビジネス」を追求する。
結果、顧客はスターバックスのファンになり、商品を通じて、その企業の「理念」を買っていくのだ。
その結果として、スターバックスはコアなファンに愛され、十分なリターンが得られるようになっている。
短期的な売上や利益を目指すのではなく、高い理想を「ミッション」として掲げ、そのミッションを徹底的に従業員に浸透させることで、事業活動がぶれなくなり、多くのファンの心を掴むことになる。
それこそが、スターバックスが多くのコアなファンを掴んで離さない秘訣なのだ。
スターバックスはコーヒーを売っているのではない
スターバックスにはサービスマニュアルが存在しない。
コーヒーの淹れ方や店舗運営などには詳細なマニュアルがあるが、接客に関するマニュアルはない。
スターバックスと、他の似たような理念を掲げている会社の一番の違いは、実はここにある。
ミッションを徹底的に教育するところまではいいのだが、ここで一番大切なことは、「権限委譲をして、その実現のための自主性と創造性を発揮してもらうこと」。
これこそがスターバックスの接客の「核心」なのだ。
あなたも経験がないだろうか?
コンビニやファミレスなどに入ったときに、従業員がそっぽを向いて上の空で、マニュアル通りに「いらっしゃいませー」と言葉だけで言っている場面に出会い、ガッカリしたことが。
接客をマニュアル化することの弊害は、「言われたことだけやっていればいい」という気持ちが従業員に蔓延してしまうことだ。
そしてもう一つ、権限委譲が正しくされていないと、従業員はとっさのときに機転を聞かせて柔軟な対応をすることができない。
この本では、スターバックスの店舗のスタッフが、その場で本人の判断でミッションに沿った柔軟な対応をし、結果としてお客さまに感動体験を与えたかの例がたくさん載っている。
中でも僕が一番心を動かされたエピソードを紹介しよう。
ある女子高校生は、スターバックスの大ファンで、毎日学校帰りにある店舗に通っていたという。
シナモンロールが大好物だった彼女だが、彼女はそのお店で働くスタッフたちの仕事ぶりに憧れていて、いつかスターバックスに入って働きたいと願っていたという。
しかし、彼女は幼い頃から心臓に病気を抱え、移植手術を待っている身だった。
日本では手術が受けにくいため、両親と彼女はアメリカで移植手術を受けることを決意し、渡米することになった。
出発前日、父親は日本を離れ手術を受ける彼女に「日本での最後の食事はなにがいい?」と尋ねた。
すると彼女は大好きなスターバックスのシナモンロールが食べたいと答えた。
翌朝早朝に自宅を出発しなければならないのだが、彼女は「いつものお店の、焼きたてのシナモンロールがいい」と父親にねだる。
自宅を出る時刻は開店前なのだが、父親はなんとか願いを叶えたいと思い、無理を承知で彼女が通っていた店舗に出向き、スタッフに頼み込んだ。
翌朝の早朝、彼女の最寄り駅には、焼きたてのシナモンロールと手紙が入った袋を抱えたスタッフが、笑顔で待っていた。
「スターバックスで働きたい」という彼女の願いは残念ながら叶わなかった。
日本に戻ることなく、アメリカで短い生涯を終えたのだ。
亡くなった女子高生の父親は、岩田さんに感謝の手紙を書きこのエピソードを伝え、こうしたスタッフたちを、CEOとしてどうか大事にしてほしい、とメッセージを添えた。
営業時間外に独断でシナモンロールを焼き、それを店舗外に勝手に持ち出して手渡すという行為は、マニュアル化した接客ルールからは逸脱するだろう。
しかし、スターバックスではミッションを徹底教育したうえで、正しく現場のアルバイトを含むスタッフに「権限委譲」をしている。
だからこそ、スタッフは父親の想い、女子高生の想いを汲み、最適と思う行動を自分の意志で行うことができるのだ。
僕たちはなぜ働くのか
働く人たちはみな、一生の多くの時間を仕事に割り当てて生きている。
働く目的がないと、僕たちはどうしても、「お金のため」に働くことになりがちだ。
売上を上げる、利益を出す。
これは仕事をしていくうえでとても大切なことなのは間違いない。
しかし、そこにミッションがないと、ブランドを作っていくことは難しくなる。
岩田さんが書いている、ミッションの大切さを引用させていただこう。
1 社会は常に変化しており、「想定外」の連続。すべてのケースを事前に想定してマニュアルを作成することは到底不可能。「想定外」のときにむしろ重要なのは、原理原則である。
2 同じ企業と言っても、そこに集まる人はさまざまな価値観を持っている。みんなを同じ方向に向かわせるには、目印となる明確なゴールが必要となる。
3 ミッションを高く掲げることによって、それに共鳴する人たち、つまり最初から目指す方向が同じ人たちが入社してくる。
4 ミッションとは、通常とても崇高なもの。それを目指していると、社員のモラルが高くなっていき、離職率が減る。
スターバックスはには前述したBHAGと並んで、以下のミッションステートメントがある。
「人々の心を豊かで活力あるものにするために — ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
このようなミッションステートメントがあり、これを従業員に徹底教育すると、このミッションに共鳴した従業員やお客様が集まるようになる。
するとファンが共同体を作るように店に人が集まり、それがブランド化していく。
ミッションとブランドは表裏一体の関係にあり、ミッションが構築されていくと、ブランドが高まり、すると、値下げの必要もなくなっていくのだ。
お金のためだけには人間頑張れない。ミッションを持った人は、頑張ることができる。
それがミッションの価値なのだ。
自分のミッションを作る
岩田さんは、会社もミッションを持つべきだが、個人も生きるミッションを持つべきと書いている。
それは僕も完全に同意である。
僕自身会社から独立して4年半になるが、僕自身サラリーマン時代には、会社の理念や目標のことばかり考えて、自分の目標を考えていない時期がとても長かった。
僕たちは会社に勤めてはいるが、会社の歯車ではない。
一人一人が独立した存在だ。
だからこそ、会社のミッションに共鳴して仕事をすることは大切だが、それとは別に、自分自身のミッションを作るべきだと思う。
本書には岩田さん流の7つのヒントが書かれているので、興味ある方は参照してほしい。
僕自身、人生を劇的に変えると決めてから、何回も自分のミッションステートメントを書き直してきた。
ミッションステートメントを持つと、そのミッションに沿って自然と生きるようになるし、ミッションから逸脱することはしないようになる。
ミッションは死ぬまで進化し続けるものだ。
僕も自分のミッションステートメントを、そろそろまた見直す時期なのかもしれない。
まとめ
最終章には岩田さん流のミッションを育てるライフスタイルの提示があり、とても興味深い。
個人的にとても響いたのが、「まとまった考える時間を毎週確保する」こと。
僕はこれがいま足りないので、さっそく自分の生活にこれを導入しようと思う。
考えごとは、細切れ時間ではできない。
深く考える時間を確保して、さらに飛躍していきたい。
「ミッション」と考えると大げさに感じるかもしれないが、簡単にいえば「行動規範」なのだと思う。
最後に、僕のミッションステートメントの最新版をここに掲げる。
言葉を通じて世界の人々の相互理解と融和のサポートを行う。
絶え間なき上質のインプットにより自らをスパイラルアップさせ続け、その結果をアウトプットすることで、人々の生活に勇気と新たなヒントの可能性をもたらす。
異なるフィールドで活躍する人同士を結びつけ、繋ぐことにより、新たなコラボレーションを生む仕掛けを積極的に行い続ける。
上質の「食」「睡眠」「運動」「性」生活を実践し、健康とアンチエイジングの理想を追求する。
シンプルで野心的、そして自由な人生を謳歌し、すべての人に、その可能性を開くお手伝いをする。
「ミッション」、読みやすい文章で書かれているが、とても深く共鳴する本でした。
オススメです!
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著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。