「ケンタロウと秘密の料理道具箱」は、料理研究家のケンタロウが自ら使いこなす料理道具に対するこだわりや想いなどを中心に、自分の料理や人生についても語っているエッセイ。
ケンタロウの本はほとんどが料理レシピの紹介本で、従ってサイズも大型でカラーのものが多いのだが、本書は文庫サイズで部分的にカラーだが白黒のページも多いという、従来の「ケンタロウ本」とはちょっと異質な存在感である。
基本的にケンタロウが、「包丁」、「冷蔵庫」、「まな板」、「鍋」という風に、料理に使う小道具一つひとつを一つの章として構成されていて、その道具についての想いや、そこから派生する思い出やエピソードなどを語っていくのだが、これがなかなか良いのだよ。
もちろんプロの料理研究家が使いこなす道具自体についての魅力もあるし、ペッパーミルや包丁なんかは読んでいると彼が使っているのと同じものが欲しくなってしまうのだが、そういう直接的な魅力だけではなく、ケンタロウの語り方や彼が醸し出す空気感のようなものがとても心地良いのだ。
いま人気の「男子ごはん」などでケンタロウのフリートークを聴く機会もずいぶん多くなってきているが、このエッセイでの彼の語り口も、気取らずぼつぼつと語るいつもの「ケンタロウ節」が生きていて、彼のこだわりや個性をとても良く現しているように思う。
ナイフ・フォークなどのカトラリーやコックコートなど、直接料理と関係ない道具についての語りもなかなか味があって好きだ。特にコックコートについて語る彼の言葉からは、実際に毎日他人のために料理を作り続ける現場のコックさん達に対する畏敬と尊敬の念がストレートに出ていて面白い。
料理研究家はテレビや雑誌相手の商売なので、作ってみて味が濃すぎれば「レシピを直しておきます」と言えるし、失敗すれば作り直すこともできる。だが、レストランでお客を相手に料理を作り続けるコックさん達は、その日その時に食べにきてくれたお客さんを相手に失敗することは許されない。そのことをしっかり認識して文章にも書いてしまうケンタロウという男は、意外にも素直でストイックな男なんだなあと感心させられる。
彼の料理はいつも大ざっぱで細かいことを気にせず、でも素材の良さと勢いを重視していて、作ってみるととても美味しいし簡単だ。レシピも適当で、「気が向いたらコショウをかける」とか、「強気に焼く!」なんて記述もあっておかしいのだが、彼の本音トークがちょっと垣間見られたような気がして、なかなか楽しい本であった。ケンタロウ本が好きな人にはお薦めのエッセイ。
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