村上龍の「無趣味のすすめ」を読了。
タイトルは「無趣味のすすめ」となっているが、無趣味であることを奨めているというよりは、趣味なんかに熱中せずに自分の仕事にもっと時間と精力を注ぎ込みなさい、という意味合いの本である。
本書はエッセイというよりは「独白録」のような体裁で、村上龍がトピックごとに自分の考えを断定する文体で述べていく。中には幾つか「その通りだよな」というものもあれば、一方で「あんたは組織に属してないからそんなことが言えるんだよ」と反論したくなるものもあった。
彼が言っていることは大筋で正しく筋も通っており説得力もある。「グローバリズムへの適応」、「理想的なビジネスパートナーの存在」、「交渉時に『相手の立場に立って考える』ことが何故日本でだけタブー視されるか」、「消費者として王様と呼ばれる我々が労働者では消耗品となるジレンマ」などは、まさに日本が直面する問題の本質を突くテーマであることは確かだ。
だが一方で、心のどこかで「この本って村上龍が書かなきゃいけないかなあ」と思う自分がいるのも事実だ。「部下は掌握すべきなのか」という項目で、著者は、やる気がなかったり、同じ方向を向かない部下は辞めてもらえばいい、とあっさり言い切り、部下との関係で悩んでいる上司がいることが理解できない、とまで言っているが、それは彼がフリーで活動し、中間管理職の立場を経験せずに生きているからこそのものであり、現実問題としては彼の方法論では組織は改善しないどころか、崩壊してしまうだろう。
また、集中して仕事ができて充実している時にはオフ(休暇)など必要ない、という項目についても、やはり彼は自分の好きなことをやって生業としているのだからそのように考えるのが当たり前でも、企業に勤める多くの人には当てはまらないのでは、と反論したくなる。まあ、「オフを欲するのは無能なビジネスマン」と断言されてしまっているので、オフが欲しいと思う僕はきっと彼から見れば無能なビジネスマンということなのだろう。
というわけで、良い点もたくさんあるが首を傾げたくなる箇所も幾つかある、そんなエッセイだった。
でもこれって村上龍が書かなきゃダメかなあ。吉越浩一郎さんとか柳井正さんとか渡邉美樹さんとかが書いた方が良い本になるんじゃないかなあ。ビジネスの現場にいない人が書くビジネス指南書ってのはどうもねえ(^_^;)。
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