岡部えつ氏の「枯骨の恋」を読了。
本書は「第3回『幽』怪談文学賞短編部門大賞」受賞作である「枯骨の恋」を収録した短編集である。
友人に薦められて読んでみたのだが、非常に良い。すごく良い。タイトルにも書いたが、何といっても怖くてエロくてそして美しい。期待以上の素晴らしさだった。今年読んだフィクションの中では3本の指に入る出来だろう。
本書には全部で7編の短編が収録されているのだが、共通して言えるのが、上に書いた「怖さ」「エロさ」「美しさ」である。
まず「怖さ」だが、怪談なので怖くて当たり前というなかれ、物語の怖さだけではなく、側方支援として、さまざまな舞台装置が怖さをエスカレートさせている。
例えば「女同士の妬み」であったり、「女の容姿の衰え」であったり、「不景気と加齢による自分の年収の低下」と「失業に対する恐怖」であったり、「地方都市の過疎化による閉塞感」だったり、「ずっと昔に犯した罪の記憶と因果」であったりする。
これらの、直接の物語展開とは一見関係のないような舞台装置がとても上手い具合に作動した結果、読者(特に男性は?)は背中にじっとりと嫌な汗をかきつつも、目が離せない、という展開になる。恐らく女性と男性で受け取り方は違うだろうが、女性を美化して捉えがちな男性の方が、本書に登場する女性達の怖さに打ちのめされるのではないだろうか。
次に「エロさ」だが、これも女性作者ならではなのだろうが、視点自体が既にエロい。男が書く女性像はどうしても男性が無意識に美化した姿に改変されてしまうケースが多いが、本作に出てくる女性達の性に対する言動は非常に生々しく、時として苛烈ですらある。
最後に美しさだが、まず文体が美しい。リズムが良く読みやすいだけではなく、女性らしいすらりとした文章が物語の恐ろしさとは対照的で、そのためにこの短編集全体で、「怖さ」というよりは「儚さ」を読後感として与えてくれる。
次に表紙が美しい。昔レコードで「ジャケ買い」という言葉があったが、本書がもし書店で平積みになっていたら迷わず買いたくなるような、そんな美しい装釘である。ちなみにこの装画は佐藤正樹氏によるものだそうだが、憂いをたたえる大人の女の美しさが良く表現されていると思う。
そして最後だが、主人公達が美しい。7編の物語は全て女性が主人公なのだが、どの作品の女性達もどこか儚げで傷つき、そしてもがいている。女性が描く女性なのでその美しさは媚びておらず自然体で、じんわりと染み出してくるような美しさで、思わず主人公達に感情移入してしまう。
7編どれも面白かったが、個人的にはタイトルクレジットの、既に死んだ元恋人の骸骨の幻影とともに暮らす女を描いた「枯骨の恋」、そして7作中で一番怖かった、女同士の友情の裏に潜む主導権争いや劣等感などの醜さを織り込んだ「親指地蔵」、そして地方の土着信仰と現代企業のいじめ問題をハイブリッドにした「アブレバチ」、この3作が特に心に残った。
寝苦しい夏の夜に、怪談なんて如何だろう。僕は実際寝る前に「アブレバチ」を読んだら、すっごく怖い夢を見て夜中に飛び起きた(^_^;)。お薦めです!
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