「戦後日本の偉い人は誰」と訊かれたら、「松下幸之助」と答える人は少なからずいるのではないだろうか。言わずも知れた松下電器産業(現パナソニック)の創業者であり、松下政経塾の創設者でもある。
この人の名前は誰でも知っているし、松下、つまりナショナルであったりパナソニックであったりというメーカー名やブランド名も皆当たり前に触れているだろうが、では松下幸之助はどんな人物で、どのような理念を持って生きたのかということについては、知らない人も多いのではないだろうか。
僕もそんな一人。立派な人だったんだろうな、と思ってはいたが、これまで松下氏の著書に触れる機会がなく、一度読んでみたいと思っていた。
本書は、松下政経塾が幸之助氏が政経塾で講演したテープ100時間から選ばれた言葉の数々が書き起こされたものだそうで、関西弁の語り言葉でそのまま書き起こされた文章は嫌でも政経塾の若者たちに向かって問い掛ける生っぽさ、ライブ感がひしひしと伝わってくる。
そしてその一つひとつの言葉が実に重くそして爽やかに心に響くのだ。決して威圧的ではなく、むしろ飄々とした感じの語り口なのだが、言葉の持つ圧力が現代人とはちょっと違うような気がする。
何が違うのかと考えてみたのだが、それは彼が「成功」や「幸福」を基準にしているのではなく、「志」や「使命」を基準にして生きていたからなのではないか、という気がしてきた。21世紀の日本は環境的に厳しく、敗者が街に溢れてしまうため、どうしても「勝つ」こと、「成功する」こと、「幸福」になることを目標とする本が多くなっている。
だが、幸之助氏の言葉には「勝つ」「負ける」「成功」と言ったパーソナルなキーワードを越えた、ミッションに基づいたブレない軸を強く感じている。
幸之助氏が生きた時代も決して平坦だったわけではなく、むしろ第二次世界大戦中から戦後直後などは、いまの不景気などとは比べものにならない追いつめられた状態に日本はあったわけで、それを乗り越えてきたからこその境地であり言葉なのだと思うと、思わず読書しつつ背筋を伸ばしてしまう。
幸之助氏の著書は随分たくさん出版されているようだ。これから時間をかけて、いろいろ手に取ってみたい。とても奥が深く有り難い本だった。
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