久し振りに小説のレビューである。
今年は年間200冊の読書が目標で、そのうちの10%、20冊を文芸書に充てると言っていたのに、全然文芸書が読めていなかった。
今年はまだまだ4ヶ月半近く残っているので、ここから巻き返そう。
というわけで、久し振りの文芸書。
女性の作家の作品、特に現代の作品は、お色気モノに当たることが多いのだが、この「表参道 EXIT A4」もお色気たっぷりの物語だ。
表参道 EXIT A4
桃江 メロン 武田ランダムハウスジャパン 2009-07-16
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妄想と思考停止の脱線ストーリー
主人公「ナツミ」はニューヨーク帰りの女。しかもコロンビア大学の大学院で映画を学んできた。
脚本家として活躍するクリエイター、のはずが、鳴かず飛ばずで家庭教師のアルバイトで糊口を凌ぐ体たらく。
だが、彼女の経歴と肩書きの華やかに寄ってくる男は少なくない。
だが、このナツミは、ものすごーく妄想がちで、しかもいったん妄想モードに入ると、思考が停止し同じところをぐるぐる回る傾向にある。
しかも男運がどうも悪く、過去のトラウマを引き摺り、最近めっきり男性と深い関係なることもない。
最後にセックスしてからもう3年。
そんなナツミのもとに、フランス人ピアニストが現われる。しかも映画音楽を担当し、映画祭で審査員も勤めるという。
ビーグル犬みたいだからと、ナツミはこの男を「フレンチ・ビーグル」と心で呼ぶ。
そしてこのフレンチ・ビーグルが、ナツミに言い寄り始めるのだが、過去のトラウマから男性不信気味、しかも映画で食えず自信喪失気味のナツミは、妄想しまくり自虐しまくり。
フレンチ・ビーグルは本気なのか?それとも遊び?自分の心はどうなんだ?
ナツミの大冒険が始まる。
カッコいい!そしてカッコ悪い
コロンビア留学時代のナツミ。
慣れない英語で苦労しつつも、男にはこと欠かなかった。
パーク、ゲイリー、そして卓一郎。
ニューヨーク時代のナツミは必死で生き、そして前に進んでいた。
そしてそのナツミに引き寄せられた、カッコいい男達。
冬のニューヨークでの生活が、ビビッドにフラッシュバックしてくる。
輝いていた時。映画に夢中だった時。
ところがいま、ナツミの脳裏には、ニューヨークでの鮮やかな日々と入れ替わりで、過去に遭った辛い失恋やひどい男の言動が浮かぶ。
そしてナツミに優しく言い寄るフレンチ・ビーグルの言葉をこねくり回し、否定し、妄想する。
あんなに輝いていたナツミはどこへいったのか。
セクシーじゃないけどスイート
ナツミの一人称で語られるセックスシーンはどこか冷静でコミカルだ。セックスをひどく冷静に分析する自分がいる。
だが、その冷静さの中にも、ナツミの心の震えやときめきは伝わってくる。
正面切ってときめくことへの恐れや照れが、わざとナツミをコミカルに振る舞わせるのか。
過ぎた時間の長さと不本意な現状のせいか?
だが、そんな不器用なナツミはとてもスイートで愛しい。
頑張れよ!と大きな声で応援し、ドン、と背中を叩きたい。そんな微笑ましい女性として描かれている。
まとめ
自信を失い言い寄る相手を信じることができないナツミ。
彼女なりの大冒険は、スイートなクライマックスを迎えていく。
スリリングなのかドタバタなのか。冗談なのか本気なのか分からないまま。
でも、本人はそれなりに必死らしい。一生懸命自分を乗り越えようとしているらしい。
だから、皆で応援したくなる。
ナツミ、頑張れよ!と。
35歳ナツミ、ニューヨーク帰りの女性映画監督。復活なるか?
表参道 EXIT A4
桃江 メロン 武田ランダムハウスジャパン 2009-07-16
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著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。