あなたには、ついうっかり財布を忘れて出かけてしまった経験はないだろうか?
僕は何度もあった。財布だけではない。定期入れや名刺入れ、ノートや読みかけの本などを忘れて家を出てしまい、「しまった!」となったことは何度もあった。
「あった」と過去形で書いているのには理由がある。
ここ一ヶ月ほどは、まったく忘れ物をしなくなったからだ。
何故か。
それはチェックリストを作成して、自宅を出る前に必ず持ち物チェックをするようにしたからだ。
チェックリストはiPhoneアプリ、domo ToDo+を利用している。
domo Todo+ (sync with Google Calendar™) 4.8.3(¥250)
カテゴリ: 仕事効率化, ビジネス
販売元: yyutaka – Yutaka Yagiura(サイズ: 3.9 MB)
全てのバージョンの評価: (744件の評価)
大げさなリストではない。毎回必ず持って出るモノ、忘れると困るものをリストアップした。
これかそのリスト。この下にもあって11項目。それだけで忘れ物がゼロになった。
一度だけチェックリストを見るのを忘れたら、見事にリップクリームを持ち忘れて駅で買うことになったので、それ以来必ず見るようにしている。
さらに副産物として、出かける支度が格段に速くなった。
今までは支度をしながら、「えーと、後は何を持つんだっけ?」と毎回確認していた。行動と行動の間に「迷い」の時間があったため、のろのろしてしまうのだ。
だが今はチェックリストに載っている持ち物をダーッとデスクの上に集めてそれをポケットやカバンの所定の位置に入れるだけ。あっという間に支度は終わる。
そして一番大切なことは、チェックリストを使うことで、完全な安心が得られるということだ。
このリストに載っているモノを持って出れば間違いがないという安心感はとても素敵だ。
もちろんチェックリストに載っていないモノで、やはり毎回持つべきと気づくモノも出てくる。
そうしたら、そのモノをリストに追加さればいいのだ。
これで常に忘れ物はゼロになる。
そんな素晴らしい体験をしている最中に、こんなインパクトのあるタイトルの本と出会った。
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】アトゥール ガワンデ 晋遊舎 2011-06-18 売り上げランキング : 868
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いったいチェックリストにはどんなパワーが秘められているのか。ワクワクしながらあっという間に読んだ。
そして、チェックリストが持つ偉大なパワーに圧倒されることになった。
もう人間には憶えきれない!
現代社会は高度情報化社会だ。
医療現場もそう。航空機のパイロットもそう。そして高層ビルの建築現場もそう。
必要な知識とやるべきこと、さらに関わる人間の数があまりにも多様化し過ぎて、とても人間技とは思えないレベルにまで到達している。
だが、劇的にまで高まった技術レベルは両刃の剣だ。
ちょっとしたミスによりすべての工程が水の泡となる。
救急病棟に運び込まれる急患を救うための技術はこの30年で格段に進歩した。
だが、すべての医師があらゆる症例に対応するための全プロセスと必要な薬剤を記憶することなど、到底不可能になった。
本書によれば、集中治療室(ICU)で行われる治療は、一人当たり1日178もある。しかもこの手順は患者ごとに全員異なるのだ。
そして医師や看護師は一日平均あたり2%しか手順を間違えなかったという。
だが、2%といえば約2つの手順を1日あたり1人の患者に対してミスしているということだ。
そしてそのミスは時として手術中に大静脈を傷つけてしまうなどの致命的なミスとなる場合もある。
もう人間には憶えきれないのだ。到底無理なのだ。
チェックリストで手術成功率が劇的に改善!
この本の著者アトゥール・ガワンデ氏は外科医である。
医療現場で日々発生するさまざまなミスに頭を悩ませ続けたガワンデ氏が至った結論、それがチェックリストの導入だ。
大病院の現場では毎日何十という外科手術が行われ、執刀に立ち合う医師や看護師も、都度違うメンバーで行われる。
患者の容体や体質に関する情報や、その症例に対しての術式や手順の確認などが不十分なまま手術が行われ、結果としてミスが発生する例を多々見てきたという。
そして医療現場、特に外科手術の現場は、医師の才能や能力に依存する傾向が高く、執刀医師のやることに周囲のサポートスタッフが異を唱えることが難しい状態にあったという(白い巨塔のようだ)。
そんななか、著者ガワンデ氏はWHOからの要請を受け、既にチェックリストが本格的に導入されていた建築業界や航空機業界を視察する。
そして医療現場へのチェックリストを本格的に決意する。
当初は失敗が多かったが、試行錯誤してブラッシュアップを続けた結果、徐々に現場へチェックリスト導入が浸透していった。
そしてそれに伴い、ミスによる合併症の発生やカテーテル経由での感染症などを、劇的に減少させることに成功した。
チェックリストは、どんな複雑な現場でも有効だったのだ。
ハドソン川の奇跡はチェックリストで起きた
ガワンデ氏が医療現場へのチェックリスト導入を前に航空業界を視察した時に分かったことだが、あのニューヨーク・ハドソン川の奇跡と呼ばれる不時着劇の際にも、チェックリストが大活躍をしていたのだ。
まずは航空機が離陸する前の準備段階から、機長のサレンバーガー氏を中心として副操縦士始めクルー全員が集まって運行に関する確認事項をチェックリストを用いて行っていた。
外科手術同様、飛行機のスタッフもフライトのたびにメンバーは入れ替わり、常に同じメンバーが同乗することは少ない。
実際この時機長サレンバーガー氏と副操縦士のジェフリー・スカイルズ氏は初めて一緒に操縦桿を握ることになったという。
機長も副操縦士も経験十分なベテランだったが、離陸前のチェックリスト確認と情報共有のためのミーティングを怠らなかった(この開催が飛行前チェックリストで定められている)。
飛行機は離陸わずか90秒後にカナダ雁の群れと交錯し、両方のエンジンが停止してしまった。高度はまだ910メートルしかない。
事故発生の時点では副操縦士が操縦していたが、機長は速やかに操縦を交代して自ら操縦桿を握った。
二人の操縦士と客室乗務員はすべて事故発生時のチェックリストにしたがって速やかに行動した。
機長はもっとも安全な不時着場所を探しつつつ操縦桿を握った。
副操縦士はエンジン停止時のチェックリストを確認してエンジン再始動を試み、成功させた。
飛行機の高度から計算された不時着までの残り時間は3分半しかなかった。
通常片方のエンジンを再始動させるだけでもリスト通りにこなすと3分半かかる。
それを副操縦士は時間内に両方のエンジンを再始動させることに成功した。
これによりハドソン川への不時着が、より安全性の高いものになった。
そして機体が着水を迎えるタイミングでは、客室乗務員がチェックリストの手順に従って乗客をガイドしていた。
機体が着水すると、今度は避難用チェックリストに従って乗客を速やかに誘導し、全員を無事機外へと送り出すことに成功した。
そして機長は全乗客と乗員が脱出したことを確認してから、自らも飛行機から出た。
サレンバーガー氏はインタビューでこう語っている。
「着水後、ジェフ・スカイルズ副操縦士と私は顔を見合わせ、ほぼ同時に同じことを言った。『案外大したことなかったな』と」
数多くの幸運が重なったことは間違いない。
だが、操縦士と客室乗務員がチームワークを発揮し、緊急事態でも迷ったりパニックにならず、正確かつ迅速に行動できたのは、「絶対に信頼できる」チェックリストが存在したからだ。
複雑な手順を判断するためのチェックリスト、チームワークを作るためのチェックリスト、そして個別の複雑なタスクに対応するための一つ一つのチェックリスト。
この奇跡の陰のヒーローは、チェックリストだったのだ。
良いチェックリストの作り方
ガワンデ氏は「良いチェックリスト」作りには幾つかの条件があると書いている。
それは、以下のようなものだ。
簡単にまとめてみよう。
1. 一時停止ポイントを決める
「一時停止ポイント」とは、チェックリストを使うタイミングのことだ。
つまり、「いつ」チェックをするのか、これが重要だ。
「ドアから建物に入る際」「離陸前」など明確なタイミングのものは良いが、あいまいな場合は事前に明確にしておく。
2. チェックリストの種類を決める
チェックリストには「行動してからチェック」するタイプのものと、「チェックしてから行動」するタイプのものがある。
前者は、まず各自に知識と経験をもとに仕事してもらい、一時停止ポイントに到達したらなすべきことがすべて正しく行われたかをチェックする。
後者は確認しながら順番に手順をこなしていく。料理のレシピなどはこちらに該当する。
3. チェック項目を必要最低限に減らす
チェックリストはマニュアルではないので、すべての手順を網羅する必要はない。
むしろチェック項目が長過ぎると読み飛ばされたり、緊急時には間に合わないリスクも生じる。
リストは必要最低限にして、しかも「キラーアイテム」と呼ばれる、飛ばされがちだが致命的な項目に絞る。
4. 文章はシンプルに、見た目も大事
チェックリストの文章が分かりにくかったら、手順を守ることは難しい。
リストの文章はシンプルかつ明確に。
そして見た目も大事。1枚の紙に収まり、余計な装飾や色使いはいらない。
5. 使う前にテストをしてブラッシュアップする
航空機業界でチェックリストのプロとして活躍する専門家でも、作ったリストでテストをするとボロボロに修正されてしまう。
どんなに頭で考えても、現実はさらに複雑でややこしく、手順も交錯している。
テスト運用したチェックリストの不具合を検討し改善することで、リストは完成形になっていく。
6. 誰が使うかを明確にする
手術の執刀チームがチェックリストを使うときに問題になったのが、「誰」がリストを使うかだ。
執刀医がリストを使うと、自分の権限だけでリストを省略してしまったり、リストの使用を止めたりしてしまう。
この場合、看護師や麻酔医など、別の人間に権限を与え、リストが実行されないと手術を始めることができない、という仕組み作りが必要だ。
7. チェックの方法を明確にする
リストを「どう」使うかも重要だ。
黙視で良いのか、口頭で読み上げるのか、第3者がその場で一つ一つ確認して承認するのか。
この運用が決まっていないと現場は混乱し、反発も起きる。
事前に盛り込むべきポイントだ。
まとめ
緊急を要する医療現場や墜落を阻止する航空機のコックピッドなど、事例がスリリングなこともあって、とても刺激的な本だ。
だが、実はもっもと刺激的なのは、この本を読むと僕らは自分の生活にチェックリストを全然活用できていないという事実を知ることだ。
そしてそれと同時に、チェックリストを活用することで、僕らの人生は劇的に進化するということ知ることができる。
外出する時の忘れ物チェックはごくごく初歩的なリストに過ぎない。
自分が判断に迷った時のリスト、衝動買いをしそうになったら見るリスト、週次レビューの際に見落としがちな項目リストなど、活用できるリストは無限に作れそうだ。
僕も含めて多くの人は、チェックリストの存在は知っていても、その爆発的な威力を知らずに使っている人が多いと思う。
この本を読むと、今までの自分の作業手順や価値判断を片っ端から見直したくなるはずだ。僕も読んでいる途中からそわそわして、いてもたってもいられないような感覚を持った。
興味を持った方は是非この本を読んでみて欲しい。リストが持つ威力を知れば,活用もできるようになるだろう。
今年のベスト10入りを感じさせる読後感!お奨め!
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著者/出版プロデューサー/起業支援コンサルタント/ブロガー/心理カウンセラー。
あまてらす株式会社 代表取締役。
著書に「やってみたらわかった!40代からの「身体」と「心」に本当に良い習慣」「起業メンタル大全」「「好き」と「ネット」を接続すると、あなたに「お金」が降ってくる」「ノマドワーカーという生き方」など全9冊。
神奈川県鎌倉市の海街在住。