小説・フィクション書評

ダンス・ダンス・ダンス by 村上春樹 〜「羊」四部作 完結編 羊男がつなぐ「僕」と「世界」のエンディングとは?

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村上春樹さんの長編小説、「ダンス・ダンス・ダンス」(上下巻)を読了したのでご紹介しよう。

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この「ダンス・ダンス・ダンス」は、僕が人生において一番最初に読んだ村上春樹さんの作品だった。

彼の作品との出会いは決して早くなく、二十代半ばを過ぎていた。

当時住んでいた西東京市の東伏見から近い、吉祥寺の本屋さんで文庫の上下巻を買って読んだ。

そして彼の世界にどっぷり嵌まり、自分自身も小説を書きたいと思うようになった。

そういう意味では記念碑的な作品だ。

文庫を何十回も読み返してボロボロにしてしまい、後日単行本を買い直し、その単行本も定期的に再読しているが、何度読み返しても色褪せない。

今回も数年ぶりの再読となったが、やはり素晴らしかった。

さっそく紹介しよう。

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「羊」四部作の完結編

この「ダンス・ダンス・ダンス」は村上春樹さんの初期四部作の完結編にあたる。

四部作とは、デビュー作「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」、そしてこの「ダンス・ダンス・ダンス」だ。

当初は「羊三部作」と呼ばれていて、「羊をめぐる冒険」で物語は完結したと思われていた。

なぜなら、最初の3作品が立て続けに出版されたあと、村上春樹さんは別の作品をいくつか発表していたからだ。

長編小説でいうと、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」、そして全世界的大ヒットとなった「ノルウェイの森」である。

「羊をめぐる冒険」が出版されたのが1982年10月13日である。

そして「ダンス・ダンス・ダンス」の出版が1988年10月13日。

ぴったり6年の間隔があいている。

そしてこの間に彼は「ノルウェイの森」によって超売れっ子作家になったわけだ。

そして6年の間隔をあけて届けられたのが、この4作目「ダンス・ダンス・ダンス」だった。

懐かしい登場人物に新しい人物も加わり、再び物語が動き出し、そして完結していく。

「羊をめぐる冒険」の前に彼はそれまでの飲食店経営の仕事を辞めて専業作家になっていた。

そして「ノルウェイの森」執筆開始前に彼はヨーロッパへと移住して、主にギリシャとイタリアを移動しながら「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」を書いた。

初期の2作品はまだ兼業作家で作品も短くストーリーもシンプルだった。

それから「羊〜」と「世界の終り〜」、さらに「ノルウェイ〜」という初期の代表作を次々出版したあと、満を持して投入されたのが、この「ダンス・ダンス・ダンス」である。

軽妙で読みやすい文体だけど、複雑に入り組んだストーリー展開、そしてクリアでソリッドな日常の中に平然とファンタジー的要素が入り込んで来る舞台設定など、以降の村上春樹さん作品の世界観がここに完成したと言って良いのではないかと思っている。

東京、北海道、そしてハワイと移動する舞台

物語が進行しつつ舞台が東京、北海道、ハワイと大きく移動するのも特徴の一つ。

晩秋の東京から大雪の札幌に舞台が移り、東京や湘南、箱根を行ったり来たりした物語はハワイに突然飛躍して、常夏の島で重要な転換点を迎える。

大雪の札幌、冬晴れの東京、そしてハワイと舞台が移動しつつ、それぞれの場所にきちんとストーリーがつながっていくキーファクターがちりばめられている。

そしてその「動く」ということ自体が、この小説のタイトル「ダンス・ダンス・ダンス」のテーマになっている。

羊男が「僕」に告げる。

「踊るんだよ」

「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。」

「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ。音楽の続く限り」

じっと固まってしまった時を再び動かし、人々とのつながりを取り戻す。

それが「とびっきり上手く踊るんだ」というメッセージとなって響くのだ。

多くの死が取り戻させた「守るべき大切な『生』」と自らの生きる意味

この「ダンス・ダンス・ダンス」には多くの人物、愛しい人物が登場する。

一人一人に際立った(派手か地味かは別として)個性があり、誰もが輝き生命を全うしているように見える。

ところがストーリーが展開していく中で、一人、また一人と愛しい登場人物が死んでいく。

村上春樹作品には「死」を取り扱うものが多いが、この「ダンス・ダンス・ダンス」ではずいぶんたくさんの人が死んでしまう。

そしてその一人一人の死が、主人公の「僕」にボディブローのようにダメージを与えていく。

でも、それらたくさんの人たちの「死」と「別離」「悲しみ」を経験していく中で、「僕」は一番大切なことを思い出す。

それは、『いま生きている守るべき大切な「生」』であり、『自分自身が生きることの意味』である。

死んでしまった愛しい人々にできることは何もないが、生きている大切な人を守るために行動する。

そして生きている大切な人を心から求める。

世界とのつながりを本気で求める。

それこそが、羊男がつなごうとした、「僕」と世界のリンクだったのだ。

すべてが報われる美しきハッピーエンド

羊四部作は、ずっと「喪失」がテーマで物語が進行していく。

1作目では「10代という永遠の若さの喪失」が。

2作目では「効率や意味をなさない情熱の喪失」が。

そして3作目はより深く「愛と仕事と土地と人々との関係性の喪失」がテーマだった。

ずっとずっと、物語の中で「僕」は大切にしてきたものを失い続けていく。

そんな切ない物語が四部作に渡って続いていく。

そして最後の最後に訪れるのが、すべてが報われるハッピーエンドだった。

僕は村上春樹さんの作品の中でもこの作品が一番好きなのは、彼の作品では本当に珍しい、明確なハッピーエンドが僕たちを待っているからだ。

派手ではないかもしれないが、ここまで明確に美しいハッピーエンドの長編はなかなかない。

この読後感を味わいたくて、僕は何度もこの本を手に取るのだろう。

まとめ

僕は今回この作品を2019年の年末から2020年のお正月にかけて再読した。

2019年は僕にとっても「終わり」「手放し」の時期で、僕はこの小説の主人公に自分を重ね合わせながら深く想いを馳せつつ読み進めた。

そしてラストのハッピーエンドに涙をし、再び僕もとぴっきり上手に踊ろうと誓うことになった。

今回の再読を僕はきっと一生忘れないだろう。

生きることの意味と意義を深く問い直し、魂を揺さぶる名作。

「ダンス・ダンス・ダンス」、オススメです。

2014年に書いた前回の書評もこの下のおすすめ記事の下、次のページにありますので、よければ併せてどうぞ。

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