秋の夜長に 思うこと 自閉編
1996年9月26日(木)
Drunken Butterfly / Sonic Youth
白い壁をじっと見ていた彼の顔から徐々に精気が失われ、皮膚に 近い部分を縫うように走る毛細血管が澱む。土色へと変色していく顔。白い壁を見て、微かに口を開いている。呼吸が徐々に不規則になっていく。
熱を帯び、湿った息を吐きだすのに合わせて、唾液が絹の糸のように口元から 流れ出て、彼のだらりと垂れた右の二の腕の上に落ちた。
窓のない部屋、白い壁、蛍光灯の光り、白い壁に、這い回る蛆虫達。
彼の眉間から目尻までの線が、何かに引っ張られているかのように、不規則に 痙攣している。
笑っているのか、それとも泣いているのか。ぼさぼさに伸びた髪のせいで はっきりとは表情を読み取れない。
徐々に痙攣が全身へと拡大していき、まるで天井からつるされた糸により 操作されているかのように、彼のカラダが奇妙に跳ね始める。
胃粘膜と横隔膜から喉元に登ってくる嗚咽と痙攣を抑えようと努力しているのだろうか、 凭れ掛かっていた白い、蛆虫の這う壁に、後頭部を激しく打ち付け始める。
後頭部と壁が接触するたびに、蛆虫が、脂分の抜けきり、若干ウェーブのかかった 髪にへばりついていく。乳白色の体液が、彼の首筋に、ねっとりと纏わり付いていく。
乳白色の流れの痕跡をなぞるように、どす黒い、粘質の血が、後を追うかのように 細く、ゆっくりと流れ落ちていく。
Tシャツの襟元が、くすんだピンク色に染まっていく。カラダを硬直させ、オルガスムスの 波を受け入れるかのように、胸が波打ち、呼吸を止める。
数十秒間の後、彼は甲高い声で笑い始める。部屋の中を反響し、ビリビリとした振動を 伴う笑。
彼の口から砂がこぼれ落ちる。サラサラに乾いた砂。始めは細く、そして徐々に吹きだすように、 口から白い、木目の細かい砂が噴き出す。
痙攣の発作の度に、砂が空中に高く噴出し、汗と蛆虫の体液と血液と唾液でベトベトになった 彼のカラダにへばりついていく。
壁に寄り掛かったカラダを横倒しにして、全身で跳ねるように痙攣が続き、その合間に砂を 吐き、金属的な笑い声を立てたまま、のたうち回る。
自ら吐きだした砂にカラダを埋もれさせながら、濁った彼の眼から、涙が溢れ出る。
涙が流れた後に、砂が容赦なく張り付いていき、白濁した眼球が、砂に覆われていく。
砂に覆われた眼で、視力を失った彼はドアを見つめる。
砂にまみれた舌で、微かにつぶやく。
「噛んでくれ」
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One More Red Nightmare / King Crimson
乾いた空気の中で、ようやく夜が明けようとしている
見えたのは、鮮やかな朝焼けの、あなたが見たかも知れないような
狂気に満ちた、美しすぎるグラデーション
現実と夢の間を往復しながら
自らの狂気を慰めるかのように
あなたを抱きしめたまま
再び、眠りに落ちる
救いを求める罪人のように、あなたの乳房に顔を埋もれさせながら
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接吻 / Original Love
そっかー、もう一カ月か。
んんんんん〜〜〜〜〜、早いのかな、遅いのかな、
うーん、
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The Lacemaker / This Mortal Coil
そうなんだよね。
無性に寂しい夜
(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com
誰かの声を求めて電話して
留守番電話の、エンドレステープの哀しい声
雨の音が気になる夜
肌の滑らかさと、温かさを求める夜
そして、誰からも疎外され、孤立したい夜
電話のジャックを抜いてしまう夜
他人の気配を消すために、ボリュームを上げる夜
Le Matin 37.2℃のビデオを、一晩に三回も見てしまう夜
ゾーグとベティのピアノの音色が、胸を掻き毟る夜
アレックスが、アメリカ女に撃たれる夜
コンクリでガチガチなった腹に風穴があいちまった
黄色いベンツにケーキを積んで
ペットボトルのワインに酔い、ポンヌフを駆け抜けて
ミシェル、ミシェル、ミシェル、ミシェル!
部屋のアカリを消して
自分に誰かを愛する資格があるのかを
確認したくて