あなたの温もり 思うこと  不明編




1997年5月6日(火)


Sour Times / Portishead


逆手に銀でできたポワソンナイフを振りかざし、

赤茶けた埴輪を滅多刺しにしている。

ボロボロと焼けただれた赤土が崩れ落ちるるのを血走り濁った目を引きつらせ、

僕は埴輪を滅多刺しにしている。

この埴輪はぽってりとした耳たぶをした子供が僕の誕生日にくれたプレゼント。

赤黒い埴輪にピンクのリボンをかけて、

僕の部屋の玄関の前にそっと置いてあった、

古ぼけた赤黒い埴輪。

カイシャ帰りに街道から路地に入ると、

子供は僕の部屋の錆びた外階段に腰掛けて、

ニコニコ笑いながら僕に向かって手招きをした。

僕もニコニコ笑いながら子供に近づくと、

彼は持っていた手提げ袋から蒼い砂を掴み出し、

僕に向かって勢いよく振り掛け続けた。

僕は口を大きく開き、

東の空に顔を出したオレンヂ色の下弦の月ごと子供の手首を呑み込もうと、

黄色い蛇で子供を縛り始めた。

ゆで卵のような子供のカラダは、

ぐにゃぐにゃと曲がりくねり、

僕は子供の被膜に包み込まれてしまい、

開いた口にはドロドロに溶けた硫黄をたっぷりと注ぎ込まれてしまう。

引きつるように笑い続ける子供の顔を見上げると、

刃のように銀色に光るペニスを喉の奥まで突き刺されてしまい、

喉の奥から鮮血が迸り鼻から逆流し、

僕は階段の前に崩れ落ちた。

目が覚めると僕は部屋で布団の上に寝かされていた。

枕元には花瓶に生けられた青いチューリップが3輪。

軋むカラダを起こし部屋を呆然と見回すと、

プレゼントされた埴輪の額に待ち針が一本、

マッスグに刺さっていたので、

僕は立ち上がり台所に行き、

一昨日磨いたばかりの銀のポワソンナイフを取りだしてきて、

今、赤茶けた埴輪を滅多刺しにしているのです。

粉々に砕けるまで滅多刺しにしているのです。

砕けた粉は階段にまき散らされた蒼い砂と一緒に、

屋上から遠くに撒いてしまおう。

だから今僕は埴輪を滅多刺しにしているのです。

銀のポワソンナイフを振りかざし。





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