Red / King Crimson


ずっと雨が降り続いている。もう何日降り続いているのだろう。

僕の部屋から眺めるとこの前まで青梅街道だったところがすっかり土石流で埋まってしまい、土色の濁流が坂上の方からすごい勢いで流れ続けているらしい。

街灯もみな流されてしまったらしく、道路だったあたりは真っ暗で良く見えないのだけれども、道路の反対側のビルの明かりがまだ灯っているのがぼんやりと見えるから、きっと向こう側にはまだ人が住んでいるんだろうと思ってふと安心してみた。

部屋の蛍光灯を付けたままにしていると、窓の外の暗闇に吸い込まれてしまうような恐怖感を感じる。窓ガラスを突き破り濁流の中に吸い込まれていくような気がして明かりを消し、モニタの前に座る。

CDの音を止めて、香を焚いてモニタの前に座っていると、濁流の流れる音がどんどん直接耳とカラダに襲い掛かってくる。岩と岩のぶつかる音や、家か何かがメキメキと音を立てて砕けていく音、自動車かなにか、大きな金属の塊がゴロンゴロンと転がりながら流されていく音。

ぼんやりとタバコに火をつけてゆっくりケムリを吐きだしたら、窓を開けてみたくなった。

かろうじて豪雨を遮っていた窓ガラスをゆっくりと全部開いてみると、あっと言う間に床の上に雨がどんどん入り込んできた。

雨の粒と粒がつながって細い流れになって床の上をつたっていくのを、あぐらをかいてタバコをくわえたままずっと眺めていた。

どっと言う音と共に突風が部屋一面に雨の粒を運び込んできて、僕のシャツもパンツもくわえていたタバコもモニタもキーボードもステレオも電話も全部が何もかもイッペンに水浸しになった。

フローリングの床の上を、水がどんどん流れていく。座っている僕のカラダを避けるように弧を描きながら流れる水が、青白いモニタの光りを反射して、サラサラと戯れていた。

窓の外が一瞬真っ白に光り、閃光弾の炸裂したかのような稲光があり、続いて鋭い衝撃とともに雷鳴が轟き雨粒が再び突風と共に一気に部屋の中に入り込んできた。

僕は開いた窓に向かってあぐらをかき、何時の間にか火が消えていたタバコを投げ捨てると、雨に濡れたシャツとパンツを脱いで裸になった。

雨に濡れながらも青白い光りを放ち続けるモニタの明かりが、二の腕に絶え間なく降り掛かる雨粒にかろうじて色彩を与えている。

やがて金属の焦げるような匂いとともに小さく火花を放ちモニタは消えた。部屋は暗黒に包まれ街道の反対側の建物の明かりだけが雨を通して微かに揺れている。

僕は立ち上がり窓の前に立った。雨はますます激しくなり断続的に稲妻と雷鳴が襲ってくる。髪の毛からはポタポタと水がしたたり、肩をつたってペニスまで流れ落ちていく。

僕は勃起したペニスを見下ろし、濁流に向かい、立ったままマスターベーションをした。

暗闇を引き裂くような稲妻が僕の正面に輝いた瞬間、全ての景色が一瞬浮かび上がり、再び闇に消えていく。

濁流の音が雷鳴にかき消される中に向かい、僕は勢いよく射精した。白濁した精液が雨に洗われて行くのを、闇の中でかすかに感じ、僕は息を弾ませながら意味もなく微笑んでいた。







(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com