思うこと
1997年6月16日(月)
やさしい気持ち / Chara
カイシャを出ると空は鉛色に深く垂れこめていた。大日本印刷のビルの横を通り左内門へと辿り着く。外堀通りから200メートル程入っただけで、都会の喧騒からなんともかけ離れてしまったような気がした。
航空自衛隊補給本部、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地。
ヘルメットを被った歩哨が立っているので、入門証に記入し、バッチを受け取り胸のポケットにつける。複写になった入門証、一枚ずつ丁寧に兵隊さんがカーボン紙を挟み込んでいく。ちょっと最近では見られないような代物。
敷地内に入ると相変わらずここは別世界。真っ昼間に大の男共がバドミントン大会を開催している。道場では剣道の試合をしているようだった。路上では幌付きトラックの運転技術試験を行っているらしく、道の真中にパイロンが並べられ、迷彩色に塗られたトラックがぐるぐると走り回っていた。
三島由紀夫が自決した建物はもう取り壊されてしまって残っていない。クレーンが幾つか立っていて、新しい建物を建築中であるのことが分かる。
道路の舗装が何となくいい加減で、あちこちから雑草がはみ出している。土のままの部分もあり、ところどころにぬかるみが出来ている。
二階建ての殺風景なプレハブの建物に入っていく。廊下には中央に赤い絨毯が敷かれているが、心なしか色あせている。戦闘機や戦車の模型がショーケースに入れられて並んでいる、何かのエンブレムのようなものもぶら下がっている。
打ち合わせ相手のいる部署の部屋に入る。いつもどおり異常に人口密度が高い室内に、見事に男ばかりが制服を着て座っている。ライトブルーの開襟シャツの右胸には航空自衛隊のエンブレム、両肩には階級章が金線と星を輝かせて、部外者にも自分の立場を見せ付けている。
担当者と挨拶して名刺を交換する。妙に狭いテーブルに腰掛けて、すぐ後ろに背中合わせに座っている人とぶつかりそうになりながら打ち合わせを済ます。以前はほとんど見かけなかったのだが、最近ノートパソコンがずいぶん増えたような気がする。さすが、スクリーンセーバーにF15戦闘機が映っている。出してもらったコーヒーはすごくおいしかった。
打ち合わせが終わり席を立つ、課長さんの机の前には、重厚そうな木でできた「●●課長」の文字。パーティションに貼り付けてある大きなポスターに眼が行く。「その一言がイエローカード」「保全」、いかにも自衛隊らしい。
同じ一佐でも、課長な人もいたり課長じゃない人もいたりする、階級と役職が二つあるっていうのもちょっと不思議な感じだ。そういえば入門証にも面会者の階級を書く欄があった。階級別訪問者の傾向と対策をデータベース管理なんて、するわけないか。
などとバカなことを考えつつ、フラフラと左内門から現実世界に戻ってきた。外から見ると高い壁に遮られた不思議な世界。中には制服を着た男達が、有事に備え続ける日々があった。
コンクリートの壁の仰々しさと、中で働く人達の実直さに、若干のギャップを感じていた。
やさしい気持ち / Chara
引っ越してからずっと毎日飲み続けているので、ちょっと今日は飲むのを止めてみた。引っ越したのが1月25日だから、もう5カ月近くずっと毎日必ず飲んでいた。引っ越す直前も多分ずっと飲んでいたような気がするので、確実に半年間は毎日アルコールを体内に入れてきたことになる。最近「私が見るもの」で、せんべいさんが「酒を飲んでいる時間がもったいない」と書いていたのを読んで、僕もちょっとそんな気がしていた。
確かに酔ってなければもう少し夜を有効に使えるのではないか、などとふと考えつつも、わざわざ禁酒宣言をしても絶対に続かない自信(笑)があるので、とりあえず今日一日、酒をやめてみた。明日もその気があれば飲まないだろうし、飲みたくなれば飲むだろうし、こんな感じが一番自分に優しくて丁度よいかも知れない。それにしても、いつの間にこんなに毎日飲むようになったんだろうか。
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