思うこと
1997年6月18日(水)
The Carnival / The Cardigans
まだそれほど遅くない時間だったので、傘をさした会社員や学生で駅はごった返していた。
改札を抜けホームへと降りる。
階段を降りきったすぐのところに女子高生が6人ほどたむろしていた。
全員髪の毛は茶色と金色のまだらで、アタマには安っぽい花の飾りがついている。スーパールーズは汚れた雨水を吸い込んで下の方がどす黒く変色し、カバンにはたまごっちとPHSとキティちゃんのPHSケース。爪には青や緑のマニキュア、何となく昔なつかしのスクェアカット。
ポッキーをぼりぼりかじったりタバコをふかしたりしながら、バカでかい声でけたたましく話し続けている。スカートはそのままでもパンツが見えてしまいそうな程短く、眉毛は同じように細く、肌は同じように浅黒い。通り過ぎようとするとムッとするようなコロンの甘ったるい匂い。口紅も青っぽいような感じ。
一人の携帯が鳴り、ホームでばかデカイ声で何やら喋っている。何を言っているのかは良く聞き取れないが、けたたましい笑い声だけは確実に聞こえてくる。
ぼんやりと眺めていて、何とも彼女達が哀れに見えてきた。どうして誰も彼女達に、自分たちの姿がどんなにみすぼらしいかということを言ってあげないんだろう。親や先生は、彼女達のぼってりと化粧をした姿をどう思っているのだろう。
彼女達の短いスカートから伸びる浅黒い両足にマスコミが群がる結果なのか、販売競争に打ち勝たなくてはならないPHS業界の策略なのか、性を金で買う男共と何でも金で解決したい彼女達の利害関係の一致の結果なのか。
いつの時代にも流行はあると思うし、時にはその流行が奇抜であることもあるとは思うが、今の女子高生ほど、メディアのプロパガンダに踊らされている人種はいないのではないだろうか。
自分達が最先端であるといううぬぼれと、そのうぬぼれを利用しようとするマスメディアやメーカーが、どんどん彼女達の流行を作りだし、それをいかにも彼女達自身が作りだしたかのような幻想を抱かせる。
どうしてある日突然でかい花の髪飾りがそこら中の店に並ぶのか、どうしてサンリオでなければいけないのか、アムロの他には見習うべき眉毛をしている女はいないのか、どうしてスカートは短くないといけないのか。16歳から18歳という、一番素肌が美しく髪の毛にも勢いがある年齢を、こてこての化粧とヘアマニキュアで塗り固めてしまう以外に、彼女達に自己表現の方法はないのか。
テレビにチャンネルが7つしかなければ、その7つの中で最先端を見出そうというのが彼女達のスタンスなのだろうか。一歩テレビの前から離れ、劇場や映画館に足を運べば、今までの価値観とは全く違う世界が、彼女達の一日の携帯の電話代をつぎこめばいくらでも足下に転がっていることを彼女達は気付かないのだろうか。
ひとつの流行があれば、それに対してのアンチテーゼが自然発生するのが当然の流れだとおもうのだが、今の彼女達には反体制を唄うだけのチカラはないのかも知れない。
いつの日か彼女達が、自らの視野の狭さに気付くときが、果たしてくるのだろうか。
そんなことを考えつつ、ボーっと電車に揺られて帰ってきた。
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ちょっとばかり残業をしてカイシャを出た。静かな雨が細かい飛沫となり、水銀灯に照らされるアスファルトを青白く照らし出していた。