あなたの温もり 思うこと
不明編
1997年6月24日(火)
Hey Lula / Yutaka Fukuoka
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舞踏病に犯された半透明のカラダを引きずるように、
老兵士は粘性を持った緑色の唾液を口元から垂らしたまま、
砂丘の頂上にそびえる教会の鐘が打ち鳴らされるのを、
暗黄色に濁った目を天空高く上げつつ、
耳を澄まして聴き入っている。
聖者の降臨を待ち望む亡霊達が一斉に蝙蝠を解き放つと、
紅色に西の空低く浮かぶ月めがけ、
鳴り響き続ける重厚な鐘の音が反響し続ける砂丘の上を、
砂塵を伴う暗黒の渦となり飛び立っていく。
老兵士は銃口の錆び付いたマシンガンを肩から外すと、
天頂に蒼く輝くカペラに向かい、
乾いた銃弾を勢いよく乱射し続ける。
老兵士は砂の上に仰向けに膝から崩れ落ちると、
明滅する星の銀色の光りを乱反射する白く細かい砂を鷲掴みにし、
勢いよく口に流し込みながら、
響き続ける教会の鐘の音に埋もれるように、
一人涙を流し続ける。
舞踏病に犯された老兵士の半透明の粘膜は、
星降る夜に儚く舞い続ける蜉蝣達の翼に包まれるように、
白い砂の中に少しずつ、
少しずつ、
溶けていく。
蝙蝠達の黒い群れが紅色の月を横切るように飛び去る時、
砂丘には無数の蜉蝣が舞い、
か細く輝く透明な翼は満天の星の光を乱反射して、
老兵士の透明な亡骸を金色に照らし出す。
鐘の音の残響音が静かに砂の上を流れていき、
月はその姿を地平線の下に隠す、
満天の星空の下、
乾いた砂がサラサラと流れる音だけが、
いつまでも続いている。