Good Morning Britain! / Aztec Camera


近来ないほど熟睡したようで、セットしておいたセルフタイマーで時間どおりに目が覚める。遮光カーテンを開けたままにしておいたので、窓の外の鉛色の空が見えている。雨がまだ降っているようだ。

しばらくベッドの上で呆然としていたが、電車に乗り遅れるとしゃれにならないので思い切ってカラダを起こし、シャワーを浴びる。デラックスツインの部屋のバスルームはさすがにいつものシングルの部屋とは違い、シャワーも心なしか使っていて気分が良い。引っ越して以来、シャワーは殆ど使っていないので何とも気分が良い。自宅の部屋のシャワーは、湯量が全然なくてちっとも気持ち良くない。

シャワーを満喫して部屋に戻ってくると時計は7時を過ぎようとしていた。電話でニナを起こしてから、昨夜コンビニで買っておいたサンドイッチをぱくぱく食べる。平日に9時間も眠ったのはすごく久し振りで、さすがにカラダが軽い。どんどん支度してさっさとチェックチェックアウトする。やっぱりデラックスツインに一人で泊まるのは、あんまり楽しいものじゃないな。というのが今回の感想。部屋は良かったんだけどね。

ホテルを出ると、昨日ほどは激しくないものの、まだパラパラと細かい雨が降り続いている。駅前に出ると、高校生達がぞろぞろとたむろしていて、今までにないほどの活気があった。




Pretty Woman / Kinks


改札口にも高校生達がたむろしている。中には茶髪で大きな髪飾りをつけた娘もちらほらいるが、半分ぐらいの娘がスーパールーズ。残りの娘達は普通のソックスに普通の長さのスカートという感じ。

高校生達をかき分けるようにホームに降りると、例の弁当屋のオヤヂ、今日もちゃんとホームの上にいた。もうこうなってくると、出張の時に会えないとすごく寂しいかも知れない。うーむ。

僕がホームに降りるのと殆ど同時に、酒田発大館行きの普通列車が入ってきた。満員の高校生を詰め込んで3両編成の電車が入ってきた。電車が止まるとわらわらと高校生達が降りてくる。そうだよなー、この電車に乗れないと、次の普通列車は2時間後なんだから、そりゃ一生懸命これで通うんだよなー、などと妙に感心しながらも弁当屋のオヤジの回りをうろうろ歩いていた。今日はオヤジは黙ってホームの上に立っていた。恐らく学生ばかりだから、商売にならないと諦めていたのかも知れない。

あの独特の声を聴けるかなーと期待していたので、ちょっとがっかり。






Light My Fire / Jose Faliciano


折返しの普通列車はやはり学生と、そして明らかに出張のサラリーマンと、若干の老人を乗せて発車した。さっきまでぎっしり乗っていた学生達の熱気がまだ車内に残り、窓ガラスが曇ったままだった。

座席に余裕があるので、僕はカラダを斜めにして窓の外を眺めていた。酒田を出てしばらくは複線区間だが、2駅ぐらい過ぎると単線になる。

僕は山側に座っていたので、晴れていれば窓の外には鳥海山のものすごい美しい眺めを見ることが出来るのだが、今日はこの雨と霧のせいで、鳥海山は全く見ることができない。

反対側の窓の外は基本的には田園と防風林が交互に現れ、時折鉛色の海が覗くという感じ。

しばらく行くと線路が徐々に山の中に入っていく。単線なので両側すぐのところまで夏草が生え茂っている。眺めているうちに急になにか心の中がざわざわしてきて、僕は運転席のすぐ後ろまで移動し、再び山側の座席に座った。

細かいカーブの続く山の中を、3両編成の小さな電車が細かい雨をはじき飛ばすように走り続けている。びっしりと線路沿いに生えている夏草は、まるで線路の上に覆い被さるように両側から垂れ下がっている。電車が近づくと、風圧で垂れ下がっていた夏草がはたはたとはためき始める。電車が通過するときには、まるで電車に手を振るかのように激しく夏草は自分自身を振り回し、自分に積もっていた雨粒を振り払うようにしている。

夏草はみな鮮やかな緑色で、中には白い小さな花をつけているものもある。夏草はみな背が低く、線路にはみ出すように生えているのだが、それよりも一歩奥まったところに、もう少し背の高い、しかし木と呼ぶには貧弱な草のようなものが、夏草の鮮やかな緑よりは若干くすんだ、広葉樹独特の艶のある葉を力強く開いて、夏草の風に対する過敏な反応を窘めるかのように、少し遠慮気味に風に葉を揺らしている。

広葉樹のさらに奥には、一段と濃い緑の針葉樹をつかた松の防風林が、列車が巻き起こす旋風などには全く気を掛けないようなむとんちゃくな感じで、堂々とその青緑の針のような葉を突きだしている。

しばらく行くと、両側の夏草の背丈が高くなり、まるで緑のトンネルの中を走っているような感じになった。初夏の細かい雨を受けながら、ぐんぐん伸びる夏草のみどりのトンネルの中を、自分がまるで滑っているような錯覚に陥った。

もう10年ぐらい前に、奥只見を一人で旅行したときの、只見線の眺めを思い出し、朝から一人でニヤニヤしてしまった。

このみどりのトンネルを見ることができただけで、今回の出張はすごく楽しいものになった。なんて簡単なヤツなんだろう。うーむ。




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