9時丁度発の「のぞみ」に乗るために、いつもの黄色い電車ではなく、オレンジ色の快速電車に乗ろうとしていた。
そんな時に限って、オレンジ色の電車と、地下鉄から乗り入れてくる東西線がダブルで事故を起こしていて、ダイヤが大幅に狂っていた。東西線は止まっていた。
大きな荷物を抱えた僕は、嫌な予感がしながらも、仕方なしに中央線快速電車のホームへと降りていった。
予想どおり、ホームの上にはいつもの数倍の人達がウジャウジャと並んでいて、次の電車の到着を待っていた。朝から容赦なく照り付ける真夏の太陽が、人々の並ぶホームの上に熱風をもたらし、僕達の額には汗がどんどん噴き出していく。
いつもなら2分毎にひっきりなしにやってくるオレンジ色の電車がなかなかやってこない。ジリジリと照り付ける太陽がスーツ越しに僕の皮膚を焦すような錯覚に陥る。
ようやくやってきた電車はまるでナチスの収容所へと送られるユダヤ人を載せた貨車のように、すでに溢れるような状態でホームに滑り込んできた。ホーム上の誰もが一瞬乗り込むのを躊躇したくなるような混雑ぶり。一本待とうかという気になっているところを容赦なくアナウンスが流れる。「後続の電車は大幅に遅れています。皆さま到着の電車に御乗車願います。」
諦めて既にぎゅうぎゅう詰めの車内に乗り込もうとする。後ろから押されてしまい、乗り込んだというよりも、押し込められたという感じ。ホームと電車の隙間がどこにあったのかも分からないまま、完全密封状態に陥る。
僕が乗った時点でもう電車は満員状態で身動きもできないのに、その電車は駅に着くたびに更に新しい乗客を詰め込まれていく。自分の体の前に持っていたカバンがどんどん人と人の間に勝手に行ってしまいそうになるのを必死に引っ張る。
阿佐谷でまたしても大量の乗客を詰め込んだ電車が発車したとき、僕の目の前に若い女の子が押されてやってきた。
胸が大きく開いた黒いTシャツからは、非常に豊満な胸の谷間がはっきりと見えている。他人に胸が触れないように自分の手で胸を抑えているため、余計胸が強調された状態になっている。
正面やや斜めの位置に立っている彼女の胸が、カバンを持った僕の肘に密着する状態になっていて、柔らかさが伝わってくる。
ギュウギュウ詰めの電車の中で、特にすることも何もないので、ついついその女の子の胸の谷間にばかり視線が行ってしまい、彼女の胸に密着している僕の肘周辺だけが以上に過敏な状態になっていく。
電車が止まろうとブレーキを掛けると、僕の肘にあたる彼女の胸が圧迫されてきて、何とも柔らかくて気持ちが良い。ううう。
身動きが全然できない状態なので、カラダの位置をずらすこともなかなかできず、それを良いことに彼女の胸の感触を堪能してしまった。うふふふふふ。
中野を過ぎて車内が急に暑くなってきた。冷房を弱くされたのかも知れない。みんな額から汗をダラダラと流している。ホントにユダヤ人の収容所行きの車内みたいになってきた。シンドラーのリストを思い出したりなどしつつ彼女の胸に再び視線を落とすと、豊満な胸の谷間にじっとりと汗が浮かんでいて、なんともエチな状態に。きゃー。
あんまり妄想するとまずいので(なにがまずいのかは内緒。きゃー)、視線をそらしたりまた戻したりしつつ電車はようやく新宿に到着。
新宿でぞろぞろと人が降りて、ようやくいつもの通勤電車ぐらいの混雑になった。
胸の大きな女の子はどうやら新宿で降りてしまったようだった。
何となく得をしたような気がしたのだが、毎日こんなこと続けてたら、逆にカラダに悪いかも。ううむ。
などと間抜けなことを考えつつ僕は新大阪行きの「のぞみ」に乗り込んだのであった。
7月3日、木曜日の朝、僕はいつもと同じ時間に三鷹駅にいた。いつもより大きな荷物を抱えて。
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