あなたの温もり 思うこと 不明編
1997年9月16日(火)
Soon / My Bloody Valentine
言葉により具現化された瞬間から僕達の想いは色褪せその想いが強ければ強いほど猛烈な勢いで過去という二度と取り戻すことのできない世界へと旅立って行ってしまう。宿るべき肉体を失った想いは無限に広がる漆黒の闇の中に埋もれていく膨大な量の人類の想い達と共に永遠に葬り去られてしまう。葬り去られた僕達の想いの数々はそれでもしばらくの間はまだ温もりを保ち続けお互いに近づいたり離れたり明滅したりすることができる。だがやがてその微かに呼吸を続ける小さな想いは闇の世界の管理人の手によって一つ一つ丁寧にその温もりを抜き取られ白色矮星のように輝きを失った僕達の小さな想いの抜け殻達はやがて自らの重心を失い永遠の闇の中へと静かにゆっくりと墜落していき二度と輝きを取り戻すことはない。
さらさらと闇の中を流れ続ける微かな炎が、
静かに降り続く雨の音に反響するように、
コンクリでガチガチに固められたこの世界に広がり、
光りを失った頭骨の両眼の黒い穴から流れ続ける暖かい光りを求め、
巨大な新月はスモッグに汚れた東の空を燕脂色に染めていく、
想いを失った僕は闇夜に降り続く黒い雨の中アスファルトの上を彷徨い続け、
熱に冒され膨張しきったカラダを壁に叩きつける、
両眼をきつく閉じ黒い雨の降る闇夜の中、
コンクリの壁に向かい叫び続ける、
暗闇の中にまだ想いが残っているのではないかと、
壁に唇をつけたまま涙を流す。
Stay / Shakespeare's Sister
客席には観客は一人もおらず黴臭く澱んだ空気がステージを満たしている。銀色に輝くスポットが腐りかけたステージを静かに照らし続けている。僕は舞台の袖に立ち空の観客席を呆然と見つめている。澱んだ空気が静かに対流を続け舞い上がる埃が銀色の細いスポットに照らし出されている。無人の観客席から赤いバラが一本舞台に向かって投げ入れられる。銀色のスポットライトは凍り付いたように赤いバラを照らし続けている。僕は目を閉じたまま静かに舞台の中央に向かって歩き始める。ステージの中央に立つ僕を観客席の最前列から凍てついたような銀色の瞳が射るように見つめている。
Verse
想いを失った肉体は暗黒の海へと泳ぎ出し、
銀色の月がもがくように泳ぎ続ける肉体を照らし出している、
眩しく輝く、遠く失われた夢の中へと、
無軌道に墜落し続ける肉体は、
無機的に銀色に輝き続けるスポットの強烈な光りの下で、
静かに最後のセリフを呟き、
一輪の赤いバラを残したまま舞台には幕が下り、
銀色の月が静かに黒い海を照らし続ける。
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