光沢を持つシルクのシーツの上を柔らかく指が滑り、閉ざされたカーテンの向こうから夜明け前の透き通った碧が男と女の全身をも蒼く染めている。部屋の白い壁も蒼く沈み、ベッドサイドに置かれたスタンドが放つ微かな乳白色が女の小さいが、形の整った乳房を碧の中から浮き上がらせている。

若い蕾のように尖った女の乳首。左の乳首を真横に銀色のリングが貫いていて、チャーリーのやり過ぎで不規則になった呼吸の度に、ライトスタンドの光をステンレス製のリングが反射して、鈍い光を男の網膜に焼き付けている。

ベッドサイドのテーブルにはカルバドスの注がれたグラスが2つ並んでいる。男は腕を延ばしてグラスを取り、生暖かくどろりとした林檎酒を口に含む。口の中にカルバドスを含んだまま鼻から静かに息を抜く。林檎のほのかな香りが鼻腔いっぱいに広がり、チャーリーで痺れた後頭部に不可解な幾何学模様が浮かんでは消えて行く。

男は女の白い背中を抱き寄せる。か細くて滑らかな腰に手を回して体を密着させる。男の胸に女の乳房が押し付けられると、柔らかく木目の細かい温もりの中心に金属の鋭利な冷たさを感じる。

唇を重ね、男は口の中に含んでいたカルバドスを女の口腔にゆっくりと流し込む。男の口の中に女の舌が入り込んでくる。甘い林檎酒の香りを男の歯茎になでつけていく。唇を離し、女の白い肩を抱くようにしてシルクのシーツの上に横たえる。なだらかな曲線を描く白い腹。産毛がスタンドの弱い光を浴びて輝いている。乳房は横になっても形が崩れず、体内から突き上げるように尖っている。陰毛が女の白い肌とシルクのシーツにアクセントを与えるように、僅かに黒く輝いている。

女の首筋に唇を這わせる。ゆっくりと肩へと降りていき、今度は舌で同じ場所を舐め上げていく。呼吸が少しずつ乱れ、擦れた声が漏れる。女の細く白い指が男の屹立したペニスに絡み付く。指の冷たい感触が脊髄を伝わって昇ってくる。

ピアスに貫かれた乳首を口に含む。正円型のステンレスが男の歯に当たりかちかちと音を立てている。リングを軽く噛むようにして引っ張ると、固く尖った乳首が引っ張られ、女は小さく呻き、両手を頭の後ろで組んだ。女の白い脇の下からは、甘い女の匂いと肉の匂いが漂ってくる。

「ねえ」女は擦れた声を出し、体を起こした。男の舌は彼女の太股に吸い付いていた。女は黙ってサイドテーブルの引き出しを開け、中から刃渡り5センチ程のクラシカルナイフを取りだした。男は女の白くて張りのある皮膚から顔を起こし、女の目を見つめた。女の目は黒く濁り、焦点があっていなかった。

女はナイフの刃を取り出し、男の顔の前に差し出した。冷たい鋼に部屋の碧とスタンドの灯が映っている。男は女の顔を見つめた。

女は男の視線を正面から受け続けた。そして女は刃の先端を女自身の左手の甲に押し当てると、何の躊躇もなく3センチ程一気に切り付けた。

白い皮膚に引かれた1本の線からゆっくりと血が溢れ出す。切り口が浅いため、血は噴き出してはこない。じわりと溢れるように流れ出す。玉のように盛り上がったどす黒い血は張力を失い手首に向い流れ始める。

女は血の流れる自分の手首を見つめていたが、ふと血色のない顔を男に向け、流れる血を指で掬い、それを男の唇に塗り付け始めた。乾きかけた褐色の凝固性の血液を、女は男の唇に丁寧に塗り付け続けた。上唇を終えると下唇へと、指を何度も傷口へと運び、男の唇を褐色に染めていった。男は肉と鉄の匂いを嗅いだ。白く細い女の指がどす黒い血液で濡れるのを、じっと眺めていると、男は今までにないほど激しく勃起した。

女の手の甲の傷の血はすぐに止まり、女は最初の傷の左側に、別の傷を作った。女は再び流れ出る血液を指で掬い、今度は自分の乳首に塗り付け始めた。女の白い指が銀色のピアスが貫く乳首に自らの血液を塗り付けている。均整のとれた白い乳房の中心に、なすり付けるように血液を塗り付けていく姿に向かって、男は突進していった。膨張したままのペニスを女の腹にこすりつけ、血を塗られた乳首を口に含み、噛んだ。ピアスががちがちと鳴り、口の中に肉の味が広がっていく。男は勢いよく女をシーツの上に押し倒し、その上に覆いかぶさった。その瞬間、プツリという音と共に、男の腹にナイフが突き刺さった。仰向けになった女は自分の白い腹の上でしっかりとナイフを固定し、男がそこに突っ込んだ。女の白くて滑らかな肌の上にポタポタと鮮血が落ち、シルクのシーツへと垂れていく。部屋には血と肉の匂いが充満していた。男は痛みを感じなかった。女の乳首を貫くピアスと自分の腹に突き刺さったナイフをぼんやりと眺めつつ、白い肌に降り注ぐ鮮血の美しさに呆然としていた。

夜が、明けようとしていた。




(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com