春の麗らの 思うこと 繚乱編
1998年4月14日(火)
Good Night / The Beatles
彼の親父さんが亡くなった。今日はお通夜に行ってきた。
きちんとまとめることは不可能なので、以下は忘れてはいけないことの断片的メモ。
たくさんの花輪。カイシャの名前、中学校の名前、いろんな人の名前。
葬儀屋の長髪の兄ちゃんの態度が悪かった。
お寺のすぐ脇を新幹線が通る。親父さんとしては、もう少し静かなところで皆に会いたかったのではなどと心配してみたり。
タミーさん。僕と握手したまま涙ぐむタミーさん。
てきぱきと動くせんべいさん。笑顔だが顔色がひどく悪い。
境内の入口に作られた焼香台で三列に並んで焼香。僕とニナは一列目だった。
親父さんは遠くにある祭壇の写真の中でのほほんと微笑んでいた。
僕は冠婚葬祭の作法を知らなさすぎ。
あっという間に焼香は終わってお清めの会場へ移される。所要時間1分。お経を聞く暇もなく。
お清め。さっと来てさっと食べて飲んでさっと帰る人達。
あまりにもシステマティックに進む会にちょっとだけ苛立ってみる。
知らない人達にもビールを注いだり注がれたり。
Kさんも駆け付ける。おじいさんが亡くなったばかりのKさん。
向いの席に座っていたおじさんは、親父さんの同僚だった。親父さんが倒れた時の様子を教えてもらう。
次はお前の番じゃないか、と悪態をつきながら酒を飲む人々。精いっぱいの空元気か。
くつろぐ暇のないせんべいさん。タミーさんを気遣うせんべいさん。元祖感傷的猿が感傷に浸れずにいる。
「親父が最後にあった僕の友達だからね」とせんべいさんの言葉。
ぺたっと座って深々と僕達に頭を下げるタミーさん。色を失った瞳で一生懸命微笑む。
花見の約束を果たせなかった。無念。
せんべいさんの写真を見つめる親父さんの瞳。お酒を飲んで微笑む親父さん。お酒を注ぐタミーさん。がははと笑うせんべいさん。あれはつい4カ月前のこと。
がらんとした部屋で親父さんにお別れをする。
親父さんはメガネをかけたまま、何かをじっと考えているみたいに、しずかに棺の中で眠っていた。
メガネできた。泣いてしまった。あまりにもそのまんまの親父さん。死んでるなんて信じられない。
たくさんの花に囲まれた親父さん。でも桜はなかった。やっぱり花見ができなかったのが無念。
親父さんが58年間抱き続けた思いは今頃どこにいるのか。
お寺を出たら遅咲きの桜がひっそりと満開だった。
部屋に戻って親父さんの写真をブラウズしてニナと二人でお通夜の仕切り直し。
本当は、あと100回ぐらいは一緒に酒を飲みたかった。
(c) T. Tachibana. All Rights Reserved. 無断転載を禁じます。tachiba@gol.com
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