春の麗らの 思うこと  繚乱編


1998年5月6日(水)

Because the Night / Patti Smith Band


若いということは良いことだと信じていた時代があった。

好きな女の子が10歳以上年上の妻子持ちと不倫をしているなんてことを知ると、僕は地団駄を踏んで悔しがったものだ。もう10年近くも前のことだ。

あの頃の僕には全然理解できなかった。何故年老いつつある人間になど惚れるのか。自由ではなくなってしまった人間、会社に飼いならされてしまった人間などにどうして着いていくのか。

自分が理解できないことを、僕は金や貴金属や高級ホテルの部屋や車なんかに転嫁して考えてみた。ようするに、若くて素敵な女の子がもう中年に脚を踏み入れかけているような男に惚れるのは、物質的な満足を与えてくれるからなのではないかと。豪華なホテルに泊まれたり、ブランド物の貴金属を買って貰えたり、外車でドライブできたり、まあ、そんなことだ。

僕は知らなかった。自分が不完全であることを。自分が自分のことだけしか考えず、しかも自分自身を愛していなかったことを。自分がどこに進もうとしているのかも分かっていなかったということを。

恋愛の話だけではない。若さは可能性だ、などと言うけれども、それは努力という大前提があっての話であって、現象としてただ若いという事柄自体には、何の優越性も持っていない。あるのは残酷なまでの瞬発力と一晩に4回も5回もマスターベーションできるだけの精力ぐらいのものだ。

最近少しずつ気付き始めているような気がする。若いうちには絶対に手に入れることのできないものが存在しているということを。その「何か」を僕は今からでも手に入れることができるということを。自分はこれからただ老いていくだけではなくて、まだまだ成長することができるのだということを。

それは若いときにも視界には入っていたかも知れないけれども、目には入らないようなものなのかも知れない。一つずつ年齢を重ねていくことによってのみ見えるようになるものなのかも知れない。まだ漠然としている。でも少しずつ見えるようになってきている。

それは一体何なのだろう。

自信だろうか。そうかも知れない。誰にも養われていないという自信。自分が重ねてきた努力によってもたらされる自信。人を愛し、人に愛されて育まれる自信。自分が孤独ではなく、孤独でなければならない必要はないという自信。そんなものだろうか。

それとも夢だろうか。自分が追い続けている夢。もうすぐ手に入るかも知れない夢。実現するために努力を重ねている夢。愛する人と共に歩きたいという夢。そんなものだろうか。

それとも経験だろうか。父親を失ったり、初恋の人が手首を切ったり、慕っていた恩人に裏切られたりした辛い経験や、受験や大学での研究や夜遊びや軽い恋愛大恋愛浮気本気、そういった経験なのだろうか。

良く分からない。まだ漠然としている。

ただ、最近どうやら分かってきたなと思うこともある。

それは、僕はいつまでもキラキラと輝いていられる為の努力をしていきたいと願っているということだ。それは容姿だけのことではないが、もちろんそれも含まれている。つまりいつになっても向上し、何かに向かって登っていく為の努力とその結果もたらされる喜びを忘れてはいけないということだ。

僕自身が他人にしてあげられることなんて結局は何もないんだろうと思う。逆に他人が僕の為に何かをしてくれると望んでもあまり意味がないのではないかと思う。ただ、自分はいつでも最善の努力をして、目標を見失わないでいたいと思う。それは誰かの為に何かをしてあげる為ではなく、また誰かが自分の為に何かをしてくれる為でもない。ただ、自分が自分として存在する上でキラキラと輝き続けられる為に努力をしていきたいと思う。

それは独善的になりたいと言っているのではない。でも、僕が他人の為にしてあげられることって一体なんだろうと思う時、他人が僕の為に何をしてくれるだろうって思う時、そんなことを基準にモノを考えていてはダメなんだとふと気付いた。

自分は自分の為に進む。結果はそれについてくるのではないだろうかと、ふと思った。自分の願いを外的要因によって抑えた結果自分が幸せになれなかったとしたら、きっと僕はその外的要因を一生かかって恨み続けるのではないだろうか。そうしたら僕の周りにいる人達は僕が放つマイナスのエネルギーに巻き込まれたり、巻き込まれなかったとしてもそれを感じたりして、何らかのネガティブな影響を受けるのではないだろうか。逆に自分がしっかりと目標を持って進んで行くことによって、自分の周りの人達にとっても何らかのプラスの影響を与えることができるのではないだろうか。

そんなことをふと考えていた。そして僕は、進むしかないのだと思った。誰かの為に進むのではなくて、自分の為に進むんだと思った。




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