あなたの温もり 思うこと  不明編


1998年5月8日(金)

Possibly Maybe / Bjork


ゆっくりと流れ出す音楽が徐々に回転を早め、僕の思考回路は温まるどころか一気に加熱して煙を発してしまっている。螺旋状に渦を巻き登っていく僕の思考は闇の中を銀色の炎を揺らしながら夜の闇を焼き尽すだろう。





始まりとしての歌、高まりとしての射精、悲しみとしての心、病としての生、







閉じた心を開こうと闇を割く僕の爪は赤黒く濡れ、錆び付いた歩道橋からじっと僕を見つめるオレンヂ色に輝いた三つの目は、僕の恥とともにぬらぬらと濡れる僕の軟口蓋を喉を鳴らして旨そうに呑み込んでいく。







降り続ける白い灰、黒い川に流れ続ける目のない魚、午睡から目覚める闇の一人泣き、







徒労と分かっていてもスコップでひたすら土を掘り、どんどん土を掘り、いつまでも土を掘り、ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクと土を堀り、僕は自分が掘った穴の中に身を潜めている。緑色のハイヒールを履いたタダシ君はシューベルトにあわせて非常階段で踊り続けている。吹き出す汗が僕の両眼に流れ込み、タダシ君の笑顔が赤く濡れている。僕は手に握り締めたスコップでタダシ君を思い切り殴り付けてみたいという衝動に駆られ、自分で掘った穴の中でひたすらペニスをしごき続けているが、破裂しそうな心の渇きのせいで、とめどなく小便をし続けている。

ザクザクザクザクザクザク、じょろじょろじょろじょろ。ザクザクザクザクザクザク、じょろじょろじょろじょろじょろ。







行人花枕、女衒開眼、死亡動悸、夢幻漸減、焦燥回帰、嘆願墓標、







生まれてから死ぬまでがずっと夢の中に住み続けたフィネガンの、今日は最初のお通夜なの。赤や黄色の風船を100万個用意して、一つずつ錆び釘で割っていくと、フィネガンの涙が一粒ずつ流れ出し、黒い川は轟々と歓喜の声を上げるのさ。フィネガンが見続けた夢のカケラが一つずつ、ぽかんぽかんと浮かんでいく。空のかなたに微笑むのは、ぶくぶく太った高木ブー。団扇を片手に踊ってる、シャンプーハットを被ったフィネガンは、迫る炎を避ける為、金のフルートを握り締め、夕張メロンを叩き続ける。フィネガンがにっこりと微笑むと、山中湖で子供が一人、花火で火傷して、えんえんと泣き出した。







テレビ塔のてっぺんから、妨害電波が流されている。ガーガーガーガー。赤と白の鉄塔の一番上に、顔のない男がしがみついて、妨害電波を流している。ガーガーガーガー。彼はヒトラーの肖像画を背負っている。顔のない男は妨害電波を流しながら、時代遅れの流行歌を大声で歌っている。ガーガーガーガー。顔のない男の真っ暗な顔を、カラスがやってきてつついている。顔のない男は妨害電波を出して、カラスの両眼を潰してしまった。ガーガーガーガー。顔のない男は、テレビ塔のてっぺんからぶら下がり、鳥に食われるのをじっと待っている。妨害電波は流れ続ける。ガーガーガーガー。







乳首を強く噛むと、ピンク色の血が溢れ、青く血管の透ける白い乳房の上を、一筋流れて 落ちた。







奥さーん、ちょっと寄ってってよぉ。ほら、ちょっと、なかなかの上物だよ、よっ、はっ、いよっ、はぁ〜〜。







窓のない白い壁の部屋で、つるつるした男と女が、下半身裸でくねくねと踊り続けている。つるつるした男はサッカーボールを被り、つるつるした女は糸みみずをくわえたままくねくねと踊っている。窓のない白い壁の部屋で、つるつるした男と女が、下半身裸でくねくねと踊り続けている。







独裁者はさっきからスピーカーで何かガーガーと叫び続けているが、僕達はワッフル作り忙しくて、誰も彼の声を聞いてはいなかった。







ゆらゆら揺れる、白日夢。終わらない、碧。重低音の、狂気。




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