思うこと


1998年6月1日(月)


Just Like Honey / The Jesus and the Mary Chain

シャンパンが飲みたい。

シャンペンと言う人もいるけれども、僕はシャンパンと呼んでいる。美味しいシャンパンを飲みたいな、かなり強めに冷やして、細長いフルート型のシャンパングラスに優雅に立ち昇る細な泡を見つめながら、リラックスして飲むシャンパン。ああ、考えただけでもニヤニヤしてしまう。

シャンパンというと、やたらと高価だというイメージがつきまとうけど、実際はそんなに高いものじゃない。どこぞのばかなサラリーマンみたいに、バカの一つ覚えで「ドンペリのロゼ」と騒いでいたら確かに高くつくけどね。

ドンペリのロゼなんかじゃなくたって、美味しいシャンパンなんて幾らでもあるし、すごく誠実な味のするシャンパンでも、吉祥寺のレストランでなら、シャトー・ヌフ・ドゥ・パープと同じぐらいの値段で飲むことができる。これが六本木となると、シャトー・ヌフ・ドゥ・パープもシャンパンも、うっかりすると倍近い値段をとられたりするからたまらない。

ドンペリみたいに非常識な値段のもの以外では、僕はG.H.Mammの「cordon rouge」という銘柄のシャンパンが一番好き。cordon rougeというのは「赤いリボン」という意味で、その名の通り、ボトルを斜めに赤いリボンが貫くように描かれている。このシャンパンはかなり角張った辛口なんだけど、ぎんぎんに冷やすと味が出てくる。ドンペリなんかには絶対にないガッツのあるトンガリ具合がとても好き。安売りの酒屋だったら2,000円台でフルボトルが買えるんじゃないかな(無責任な未確認情報)。

シャンパンは何となく不安定で、すごく繊細な、十代の女の子みたいな雰囲気を持っていると思う。これは文学的表現であると同時に、シャンパンが製造される工程の話でもある。

シャンパンは、フランスのシャンパーニュ地方で作られるものだけが名乗ることを許されている銘柄なのだが、発泡性のワインは世界中で生産されている。で、この発泡性のワインというのは、実はワインの発酵を途中で止めた状態のもので、僕は詳しいことは良く分からないけれども、酵素だか何だかのバランスが非常に悪いらしい。で、この酵素だか何だかのバランスが悪いとどういうことになるかと言うと、悪酔いしやすいということらしいのだ。

一部のデザートシャンパンを除いては、シャンパンというのは食前酒として扱われることが多いから、通常我々はシャンパンを空きっ腹に流し込むことが多い。しかもグラスに一杯じゃなくてフルボトルで注文するなんてケースにおいては、男はそれなりに財布と下半身を膨らませて店に乗り込んできていることが多いんじゃないだろうか。目の前には可愛い女の子がお粧しして座ってて、お店は気合を入れて予約した豪華なフレンチ。懐にはデザートの後で彼女に渡すプレゼントなんかを忍ばせていたりした場合には、よほど酒に自信のある人を別にして、シャンパンをゴクゴクと飲むことは避けたほうが良い。

シャンパンを空きっ腹にごくごくと流し込んだらほぼ確実に酔う。悪酔いしやすいと言うが、僕はシャンパンを飲み過ぎて気持ち悪くなったことはない。ただ、ワインを飲んでるよりも遥かに早いペースで酔いが回っていくことは確かだと思う。僕ぐらいの大酒飲みがたかがボトル一本のワインで「酔っ払う」と言ってるんだから間違いない。普段ワインを飲み慣れない人が雰囲気と口当りの良さにまかせてガブ飲みなんかしたら、プレゼントもその後のめくるめく二人の時間も台無しにしてしまう可能性もある。

アルコールに自信のない人は、二人でハーフボトルを注文して、それも残すぐらいで丁度良いんじゃないだろうか。

でもシャンパンを食前酒として、一番最初に飲むってのは確かにすごく合理的で正しいことだと思うな。だって、酔っ払って舌が痺れてる状態じゃ、シャンパンの繊細な味なんて絶対に分からないし、コテコテのソースがかかった肉料理と一緒じゃ、やっぱりシャンパンの味なんて分からないもんね。最初に飲むからこそ、華やかな気分になれるってもんだね。

何となく日本ではシャンパンというのはちょっと特別な日に飲むお酒というイメージが強いけど、僕はもっと普通の日でもどんどんシャンパンを飲めばいいのにって思う。というより、今の日本では、シャンパンの持つイメージばかりが先行していて、美味しいシャンパンを美味しく飲んでいる人の数がまだまだ少ないような気がしちゃうな。シャンパンで雰囲気を盛り上げるのも大事かも知れないけどさ、それと同時にせっかく注文した高いシャンパンを、じっくり味わって飲んであげて欲しいな。バブル時代の成金サラリーマンみたいに「ドンペリのロゼ〜」と譫言みたいに言わなくたって、美味しいシャンパンはちゃんとあるんだからね。クリスマスになると近所の酒屋で銀色のラップに包まれて売ってる似非シャンパンとは随分違う味がするはずなんだからさ。

あああ、書いてたらますますシャンパンが飲みたくなっちゃった。明日は帰りに酒屋で買ってこようかな。




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