思うこと


1998年6月17日(水)


11:45 @same open cafe as yesterday

というわけで、昨日と同じ店の昨日と同じ席に座ってこうして書いている。

cafeに入ったら、何かの記念ということで、デンファレの花を一輪くれた。コーヒーを飲みにきて、花をもらうなんて、恐らく生まれて初めてのことだ。

僕が大学に入った年にバーテンをやっていた店では、モスコミュールだとかトムコリンズのようなロングカクテルには、グラスの縁にいつもデンファレの花を飾っていた。別に何の花でも良かったのだが、デンファレは持ちが良いのと、花粉が飛び散らない、花のガクの部分がしっかりしていて、グラスの縁に引っ掛けやすいというような理由で、毎晩、何十輪というデンファレがカクテルの彩りとしてグラスに添えられていた。

デンファレにはバラやカーネーションのような華やかさはないが、今考えると、カクテルに花を一輪添えて、なんてのは、かなりキザなことだよね。だって、今どこかに飲みに行っても、そんなことしてくれる店なんて、全然ないもんね。誰が最初に考え付いたのかは知らないけど、ちょっと素敵なアイディアだったな。

あの頃は世の中はまさにバブルの真っただ中で、とにかくみんな金をばらまくように使っていた。高ければ高いほど価値があるという恐ろしい価値観が、諸手を上げて、肩で風を切って歩いてたような時代。あれからまだ10年しか経ってないのに、あの頃みんなが必死になってばらまいてた1万円札達は、いったいどこに行ってしまったんだろう。夜な夜な栓を抜かれた大量のドンペリは、通風病みのデブオヤヂ達のぶくぶくの腹の中で分解され、ピンク色の小便となって海に流れていき、海水の温度を上げ、異常気象が発生している。何百万本ものコニャックやシャンパンの空き瓶は、ゴロゴロと埋め立て地に放り出されて、その上に無造作に土が被せられていく。何千年か後に遺跡調査が行われて、土の中から大量に発掘されるコニャックやシャンパンの空き瓶。博物館にずらっと並んだ空き瓶を口を開けて眺める何千年か後の人々。。。



なんだか変な方向に妄想が進んでしまうな。疲れてるのかな。

さっき入ったそば屋では、BGMでデペッシュモードが大音量でかかっていた。誰かの趣味なのだろうか。ちょっと恐い気がする。でもそんなの、いいじゃないか。デペッシュモードをこよなく愛するそば屋のオヤヂ。実はライブとかにも出かけていってるかも知れないよ。ねじり鉢巻して(笑)。デペッシュモード聞かないとそばが打てないとかね。

ああ、やっぱりどうも変な方向に話が向かってしまうなあ。ちょっとヤバいかも。

ここではこのへんにしとこうかな。



12:25 at another cafe named "Cafe de Cona", killing time


昼にはできているはずのデータがまだできていない。仕方がないので目についたカフェに飛び込んで時間を潰す。ずいぶんと古いジャズのレコード(女性ボーカルもの)が流れているが、昼休みのサラリーマン達の話声でほとんど聞き取ることができない。

この店の名前、"Cafe deCona"だけど、フランス語でconaって何だろう。"a" で終わるフランス語なんてあまりないぞ。ひょっとして、単に店が十字路の角にあるから、「コーナー」をConaともじっただけなんじゃないだろうか。何となくそんな気がする。

店の雰囲気は何となく80年代後半の雰囲気。コンクリート打ちっぱなしの壁に、黒の大理石調の床。大理石のテーブルに黒の無機的な椅子。これでウェイトレスのお姉さんが全身黒ずくめだったり、水玉模様だったりすると、いよいよlate 80'sなのだが、この店では白いよれよれのTシャツ姿のおばちゃんがバタバタと走り回っていて、無機的な店の雰囲気と猛烈にミスマッチだ。

でもそのミスマッチさが、不思議な安堵感を与えてくれたりもするから、店というのは本当に不思議なものだ。コーヒーもなかなか美味しい。

おっと、ようやく携帯に連絡が入った。さて、仕事に戻るとするか。



23:55 still @ office, noise of the printers


うーむ、なんだか悩んでしまう。どうしてわざわざ会社でpowerbookを使って日記なんか書いてるんだろう。

ええ、そうですとも、まだ会社におります。現在23時55分。僕ひとりで7台のコンピュータと5台のプリンターと格闘中。ええ、例のポストスクリプト太郎関係です。明日の朝までに700枚出力しなきゃならないんだけど、まだ半分も終わってないゾ。ああ、モウモウ、全然いつになったら終わるのか分かりません。

でもひさしぶりにこうして深夜残業なんかして、じっくり会社のMacの様子なんかを見ていると、皆さんずいぶんとひどい使い方をしてるみたいで、思わずあちこちのコンピュータにNorton君をかけまくったりしてしまうわけです。しんとした部屋のなかでファンの音が響くのって、なかなか良いかも。

じゃ、また後ほど?



02:50 @ endless printing night


ああ、しくしくしくしく。まだ会社ですよ、奥さん。なんとか言ってやって下さい。相変わらずプリンタからは時折重たい画像を張りつけたマニュアルの紙がぺろーんと出てくるのですが、まだまだあと3,4時間はかかっちゃいそうな感じですよ。

は、3,4時間後って言ったら、もう朝じゃないですか。ああ、久々の完徹ってやつです。しかも飲んでて朝ってんじゃなくて、仕事してて一睡もできないなんて、なんてひどいことでしょう。ああ、嫌だ嫌だ。

どうしてたかがプリントでそんなに時間がかかるのかって思うでしょ。これがかかるんですよ。海外で印刷できるようにってことで、フォント情報をどっさり詰め込んだPSファイルからの出力なんで、一枚出すのに5,6分、重たいのだと15分ぐらいはかかっちゃいますね。しかもやれポストスクリプトエラーだの爆弾だのが間に入り込んでくるわけですから、まあ、そう簡単には行きませんね。

ああ、どうでもいいけど、この日記、このままアップしちゃおうかな。どうしようかな。うーん、だんだん眠くなってきたぞ。

ああ、それでもプリンターはぺろぺろと紙を吐き出すのです。

しくしく。



04:00 @ nealy transparent blue


窓の外が微かに碧に染まっていく。僕は会社の窓を開けて、外堀の向こう側に続く碧の世界に身を乗り出してみる。ふと気付いてオフィスの蛍光灯を全部消してみた。

明滅するモニタの灯、緑に点滅するプリンタのダイオード、銀色の光を外堀の水に反射させている街灯、そして空は限りなく蒼く、夜が溶け出す瞬間を演出しようとしているかのようだ。

もうあと数十分もすると、夜の余韻は一気に消し去られ、また新しい一日が始まってしまう。徹夜明けでぼんやりとした頭を冷やすために、ちょっとその辺を散歩でもしてみようかと思う。

一睡もしないまま一日が終わり、次の一日が始まる。どこで区切りをつけるのが最もふさわしいのかを考えた結果、この夜明け前の一時を今日と明日の境目にすることにした。




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