真夏の夜の夢 思うこと Summer Edition
1998年8月14日(金)
Voices of the nocturnal insects, frilled with the gorgeous silence
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23:40, foggy night with some flogs voice
思うこと、北の国からバージョン、第二日目。
北の国の朝は早い。6時過ぎに起床。窓の外は感激するぐらいの美しい青空と緑の絨毯のような山並みの連続。目覚めて山荘の窓を全開にすると、木と土と緑の匂いがひんやりとして乾いた空気に乗って一気に部屋に流れ込んでくる。こんな素晴らしい朝、ひょっとしたら生まれて初めてかもと思うぐらいの最高の朝。
バタバタと朝風呂を浴びに温泉に。うーむ、これは一人で泊まるのはもったいない。それだけが残念といえば残念だけど、逆に一人だからこそ、これだけ景色や空気の匂いなんかに敏感になるんだよな。温泉は窓がなくて、せっかくの景観を楽しむことができずちょっと残念。でもサッパリでもう破顔でベイビーって感じ(不明)。
風呂からあがると今度は朝食。食堂へといそいそと。やっぱりこの時期にこういう場所に一人で泊まるやつってのはいないらしく、家族連れやカップルに囲まれて一人で食事ってのはちょっと寂しいねえ。でも山菜がメチャメチャ美味い。やっぱり山里だけのことはあるなあ。ううう、極楽だあ。
食事も終わって身支度して、ロビーでしばしタバコをぷかぷか。やがて「羊女」とニナが車で到着。いそいそと乗り込み、再び連隊本部へと向かう。連隊本部で連隊長殿としばし歓談後、連隊長殿の自家用車を拝借してドライブにゴー。
窓を全開にしてぶっ飛ばす。湿気がなくてひんやりとした風が車の中にバンバン入って来て心地良いことこの上なし。車の数も少なくて、もう言うことなし。てな訳で、しばし車を走らせて弘前市内に突入。あちこちの店を覗いてあれこれと買い物など。買い物が終わると再び車に乗り込んで今度は遠出モードに。国道を逸れて農道に入り、両側リンゴ畑の中をひた走る。すれ違う車もごく稀で、道もなだらかで、うほうほいいながらどんどん山へと入っていく。
交差点を右折すると、息を飲むようなまっすぐな道と、道の両側には思わず涙が出そうなほど美しい杉林。まるでヨーロッパかどこかを旅しているような錯覚を憶えるような美しい景色。観光名所だの史跡だのよりも、この両側にそびえる杉林の美しさは、もう、凄いの一言。飾り立てようとしていないからこその、本当に天然の美しさ。ほとんどカルチャーショック状態。
ああ、こうして書いてると、つくづく自分の文章力のなさがイヤになるなあ。あの景色の美しさ、どうやったら文章だけで伝えることができるのだろう。
山道が終わり、しばらく平坦な道を進むとそこはもう日本海。
鯵ケ沢の海岸沿いを、JR五能線に寄り添うように国道が走っている。最近のJRのCMの景色そのままに、イカが道端に大量に干されている(CMでは女の子がイカを指ではじきながら「さびしくなんかないもん」とやるあの場面の景色だ)。
海岸沿いの道に出たあたりから、急に天気が悪くなってきた。車が向かって先にはどんよりとした黒い雲がかかっていて、何とも嫌な感じ。それでもとにかく車を走らせ、鯵ケ沢から深浦へと向かう(高校野球の予選で、東奥義塾に122対0で負けたのが、深浦高校だった)。
急に路肩駐車が増えたなあと思っているとそこは千畳敷海岸。駐車場に車を止めて、我々も海岸へと向かう。千畳敷海岸は、平らな岩盤が隆起して、それを長い年月かかって海水が侵食して出来た、でこぼこの岩場ばかりの海岸なので、砂浜のように海水浴をすることはできない(海はのっけから深いらしいし)。甲羅干しをしたり釣りをしたり、バーベキューをしたりする人々がわんさかと。わんさか、と言っても、湘南の海のような混雑振りを想像してはいけない。それなりに人がいるっていう程度か。
海の家でイカを食べたりしてから我々も海岸線へと出ていく。心配した天気も回復して、なかなか心地良い塩梅。暑すぎもせず、寒すぎもせず。
しばし海岸でぼーっとしたり、写真を撮ったりして海辺の空気を胸いっぱいにとりこんでみる。今年の夏は、これが最初で最後の海かも知れないなあ、などとちょっと残念がってみたり。
国道の向こう側を走る五能線を二両編成の気道車がのんびりと走っていく。ここでは全ての時間の流れがゆっくりとしていて、あくせく生活する東京の日々がだんだん遠いものへと変化していってしまう。ああ、社会復帰への道が遠のいていく(笑)。
千畳敷でのんびりして、再び車に乗りこんでUターン。弘前へととって返す。弘前市の郊外でちょろっと休憩してから、薄暮の中を弘前市内へと向かう。迫る夕闇の中、国道の両側の家々では、送り火を焚いている。わずか一日で再び遠い世界へと戻っていく霊を惜しむかのように、点々と並ぶオレンジ色の炎。まるで松明を灯した道を進んでいるように感じる。
弘前市内で夕食を食べてから連隊本部に帰還。連隊長殿に帰還報告をし、ちょびっと飲んだり明日の予定を聞いたりなど。連隊本部の前では、降ってくるように星が見えていたのだが、山荘に辿り着くと濃霧に遮られてしまい何も見えなくなってしまった。これだけが今日の心残り。満天の星を眺めながら日記を書きたいと思っていたからなあ。明日に賭けましょ。
山荘に戻ってきてから、ふと思い付いて東京の実家に電話をし、ばあちゃんと久し振りに話す。やたらと元気そうでまずは安心。こちらの気候だのなんだのの報告をして電話を切る。
今日は金曜日だから、いつもなら吉祥寺で飲んで酔っ払ってフラフラしているぐらいの時間。でもここでこうして一人山荘の窓際に座って暗闇を眺めていると、東京の喧騒が本当に嘘のように感じられてくる。
さて、そろそろ日記は終わりにして、眠る前にもう一度温泉に浸かってこよう。