真夏の夜の夢 思うこと Summer Edition


1998年8月18日(火)



A Whiter Shade of Pale / Ann Lenox



最近すっかり日記の更新をさぼっているせんべいさんは、今南の国にいるらしい。昨日の夜中に電話があって、「日記に書いといてよ」だそうだ。ううむ、長い長い夏休み、ちょっとばかり羨ましい。


珍しく日記ネタで書き始めたので、続いて日記ネタなど書いてみようか。


今年の正月に初日の出を見に行ったとき、御来光を拝みながら僕は誓った。「今年は365日分の日記を書くぞ」と。で、8月18日現在、書けなかった日のまとめアップはあるものの、なんとか毎日日記を書くことができている。我ながらなかなか凄いことだと思う。あの飽きっぽい僕がここまでチマチマと日記を日々書き続けるとは。


web上での時間の経ち方は、現実世界の時間の流れよりもずっと速いと僕は感じている。皆さんはどうだろうか。だって、わずか二年前のwebの世界でのできごとって、物凄く昔のことのようで、でも現実世界の自分の行動を思い起こすと、意外と大して時間は経っていないことを確認して驚いたりすることってないだろうか。少なくとも僕はある。


時間の流れが速いということと関係があるのかどうかはつきつめて考えたことはないが、web日記作者の「日記寿命」というのも、やはり現実世界で文章を書いて生活している人々のサイクルと較べると大幅に短いと感じることが多い。多くの読者を得て華々しく日々更新していた日記でも、一年後にはすっかり更新もマレになり、読者の数もぐっと減ってしまう場合が非常に多いように思う。


まあ、日記を書くことによって報酬を得ているわけではないのだから、飽きてしまったり、寂しくなくなったためにwebや日記から離れていく人が多いというのはとても良く分かる。かなり粘着質の人でないと、何年も毎晩パソコンの前に座って自分の私生活を垂れ流しにするなどというアホなことを続けられるものではない。僕もそのアホな人間の一人なのだが。


web日記の魅力に取り憑かれた人の気持ちは、web日記に取り憑かれたことのある人にしか分からない。モニタを通して飛び込んでくる未知の人の生々しい日常や叫び声を読んでしまい、その虜になってしまった人の数はかなりのものだと思う。だが、同時に、web日記に比較的あっさりと飽きて離れていってしまう人も、虜になった人と同じぐらいの数いるのではないだろうか。ある人は仕事が多忙になったため、ある人はトラブルに巻き込まれて嫌気がさし、ある人はネット不倫が奥さんにばれて逃げるように、またある人は大した理由はなく単に飽きたため、ふらりとweb日記の世界から離れていく。それは、ごくあたりまえのことだ。


僕がweb上で日記を書き始めたのが一昨年の春。旧日記リンクスに参加したのが一昨年の5月。あの頃の僕は、まさにweb日記の魔力に取り憑かれ、狂ったように日々ヒステリックに書き散らしては、熱く火照った心を持て余していた。


そしていつの間にか僕にとってのweb日記は夢でも妄想でもなく、現実世界の一形態にすぎないという思いが僕自身を支配する日がやってきていた。簡単に言うと、僕は日記を書いたり読んだりすることに対して、興奮よりも安定を求めるようになった。それがいつなのか、正確なことは分からないが、少なくとも去年の秋ぐらいにはそんなことを考えていたような気がする。


僕が日記に対して求めるものが変化するのに伴って、僕が日記に対峙するスタンスというものも、当然のことながらどんどん変化していく。そしてそういう変化の中で、僕は今年の正月を迎えた。


激しいことを書いたり、読んでくれる人達のことを煽るようなことを書くよりも、もっと肩の力を抜いて、淡々と、自分のための記録でもあり、そしてそれを読んでくれる人達の中に生まれて育つ僕という人間の記録としての日記、そんな感じにこの「思うこと」が育っていけばよいな、僕はそう思った。


日記やメイルを通じて知り合って友達になり、現実世界で一緒に飲んだり遊んだりする仲間が増えるのは確かにとても楽しいことだし、それが日記を書き続けることの醍醐味の一つであることは圧倒的な事実には間違いがないとは思う。僕だっていまでは現実世界の友達と会うよりも、日記を通じて知り合った友達と遊んでいることの方がはるかに多いし、また友達の数も、日記を通じて知り合った人の方が圧倒的に多くなっている。


でも、僕は日記を通じて恋人や友達がたくさんできたからといって日記の世界から離れていこうとは思わない。僕がこうして、毎晩バーボンを流し込みながら書く文章を読み続けてくれているたくさんの人々の心の中に、ゆっくりと育っていく僕自身の姿に憧れているからなのかも知れないし、ボタンも押さずメイルも書かずに日々黙々と読んでくれているであろう、まだ会ったことのない「あなた」に憧れ続けているからなのかも知れない。本当のところは僕自身にもよくわからない。


「あなた」の心の中でゆっくりと育つ「僕」の姿がよりリアルになるように、僕は日々こうして書き続けるのかも知れない。まだ見知らぬあなたの心の中で少しずつ形をなす僕の姿と、まだ見ぬあなたの姿を重ね、電脳の海を彷徨う無数の言葉の中から僕の言葉とあなたの心が繋がる瞬間を夢見て、きっと今日も僕はこうして書き続けるのだろう。






 

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